京都大学(京大)は6月14日、きのこの仲間の大半が含まれる「ハラタケ綱菌類」を対象として、分子系統学の方法からその種多様性の起源を解明する研究を行い、ハラタケ綱菌類は白亜紀後期(9000万年前~7000万年前)に被子植物と出会い、地下で共生関係を結んだことがきっかけとなって、急速な種多様化を果たした可能性が示されたことを発表した。

同成果は、京大大学院 人間・環境学研究科の佐藤博俊助教によるもの。詳細は、植物学に関する全般を扱う学術誌「New Phytologist」に掲載された。

マツタケやシイタケなどといったきのこ類は、日本人にとってはよく知られた食材だ。その一方で、シイタケやエノキタケなどが属する腐生菌は、生物の遺体や排せつ物を分解する役割を担うなど、生態系になくてはならない重要な存在でもある。きのこの仲間は未報告種がとても多く、種の多様性の実態は今もってよくわかっていないといい、全世界で少なくとも数万種は存在するとされている。

このように、きのこの仲間は地球上に広く繁栄し、多様化した生物として知られているが、どのような理由でその高い多様性を持つに至ったのかは、これまでのところ十分に解明されていなかったという。そこで佐藤助教は今回、一般にきのこと呼ばれるものの大半が含まれるハラタケ綱菌類を対象とし、その多様性の起源を進化学的に解明する研究を行ったとする。

  • ハラタケ綱の多種多様なきのこの仲間。際立った種多様化が検出された分類群は黄色で示している。(撮影者:佐藤博俊氏)

    ハラタケ綱の多種多様なきのこの仲間。際立った種多様化が検出された分類群は黄色で示している。(撮影者:佐藤博俊氏)(出所:京大プレスリリースPDF)

ハラタケ綱菌類の多様化速度は、2種類の手法で推定された。多様化速度とは、新たな種が生まれる速度(種分化速度)から、既存の種が絶滅する速度(絶滅速度)を引いたものを指す。要は、どの程度の速さで種数が増えていく(または減っていく)かを表したものだという。

1つ目の手法は、分子系統樹の形から推定する方法で、急速な種多様化が進むと分子系統樹上にその痕跡(短期間に枝分かれを繰り返す)が残ることを利用したものだ。もう1つは、分類群ごとの起源した年代と現存する種数から推定する方法だ。同手法は、急速な多様化を果たした分類群が、起源が新しい割に現存種数が多くなることを利用するものである。

佐藤助教は、ハラタケ綱菌類から解読した89個の遺伝子配列を利用して分子系統樹を構築。この際、菌類の化石情報を校正情報として用いることで、年代情報を分子系統樹に加えたという。ハラタケ綱に属する全分類群(目・科・属)の現存種数は、国際塩基配列データベースに登録されたハラタケ綱の配列情報を利用して推定が行われた。その後、上述した2種類の方法を用いて、ハラタケ綱菌類の多様化速度を調査したとする。