米ServiceNowは5月16日~18日(現地時間)にかけて、年次イベント「Knowledge 2023」を米国ラスベガスで開催した。

同イベントでは、AI分野におけるパートナーシップ拡大などの新たな取り組みや、同社が提供するクラウドプラットフォーム「Now Platform」の新機能、製品ロードマップなどさまざまな発表が行われた。

今回、イベント会場にて、米ServiceNowにおけるイノベーション推進を担うCINO(Chief Innovation Officer)のデイブ・ライト氏に単独インタビューを行った。同氏が語った、企業が関心を示すテクノロジーやポストコロナの働き方、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)における体験の重要性を紹介する。

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企業の収益向上の観点からAIの価値を測る

CINOの役割を「伝道師」と評するライト氏は、「AI、メタバース、ブロックチェーンなどのテクノロジーが当社にどのようなインパクトを与えるかリサーチし、どういった製品に生かすべきか決定している。また、テクノロジーの導入にあたってどのような企業を買収するか、あるいはどの企業とパートナーシップを構築すべきかなども検討する。それらを基に、当社のビジョンを社内外に発信している」と自身の仕事を説明した。

  • 米ServiceNow 社長兼COO CJ Desai氏

    米ServiceNow CINO Dave Wright氏

数あるテクノロジーの中で、同氏は生成AIを含めたAIの分野に注目している。現在は各業界のビジネスや、同社の顧客企業の従業員、IT担当者、取引先などの収益向上に繋がるかどうかという観点で、AIがもたらすインパクトを測っている段階だという。

例えば、特定業務のワークフロー改善、ITオートメーションやIoT機器の管理・運用の効率化でAIが有用かどうかなどを検討しているそうだ。

リサーチの一環で、顧客に直接会って話を聞く機会も多いというライト氏に、「IT活用を進めるユーザーが今、何に関心を示しているか」を聞いたところ、「エクスペリエンス(体験)に関する声が多く挙がっている」と同氏は答えた。

ライト氏は、「いわゆる、EX(エンプロイーエクスペリエンス、従業員体験)、CX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験)に当たる領域だ。ある従業員がアプリケーションやプラットフォームを通じて行った作業がバックオフィスでどのように自動化されるべきか。また、AIがITサービスを使いやすくするかについても興味があるようだ」と明かした。

加えて、グローバルにビジネスを展開する企業はコネクテッドエンタープライズに関心を寄せているという。

「人、システム、プロセスなどがシームレスに繋がって、データを基にした予測とリアルタイムなインサイトを得られる基盤となるコネクテッドエンタープライズを実現するために、AIだけでなくプロセスマイニング、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、バーチャルエージェントなど、既存のテクノロジーの統合を求めている」とライト氏。

Amazon、Airbnb、Uberに学ぶ革新的な体験の重要性

有効なワクチン接種証明書の提示や行動制限の解除など、各国でも新型コロナウイルスの水際対策が緩和されつつある。企業によってはハイブリッドワークを継続するか、オフィス回帰するかなど、働き方の見直しが課題となっている。米ServiceNowでは、ポストコロナの働き方をどのように見ているのか。

ライト氏は、「オフィスワークについては、テクノロジーが進んだことで仕事がタスクベースになり、タスクの完了を従業員のミッションの達成とする考え方が認められてきている。効率性や収益性の観点から、そうした働き方は今後も採用されていくことだろう。そして、変化に対するフレキシビリティが重要視される中では、その時々で働く時間や場所を自分で選べる、柔軟性のある働き方が増えていくと思う」と述べた。

  • ライト氏も柔軟な働き方を実践する。例えば、大切なプレゼンの準備をチームメンバーと行うなど、集中した作業に取り組む際はオフィスに出社するが、Zoomでプレゼンする際は周囲に人がいない自宅でリモートワークをするという

    ライト氏も柔軟な働き方を実践する。例えば、大切なプレゼンの準備をチームメンバーと行うなど、集中した作業に取り組む際はオフィスに出社するが、Zoomでプレゼンする際は周囲に人がいない自宅でリモートワークをするという

DXを積極的に進める企業がいる一方で、取り組み方を検討している企業も多い日本はDXの過渡期にあると言えるだろう。DXに取り組むうえで、どういった発想や考え方が必要なのか。ライト氏は、「DXによって実現されることを体験を通じて人々に納得してもらうことが重要だ」と指摘した。

「コロナ禍においてもリモートで数週間ごとに顧客ともコミュニケーションを続けたが、そこでわかったのは、DX先進国とされる欧米諸国であろうと、いくら必要性を説いても、体験上どう変わっていくかが伴わないとDXに取り組むことに納得できなかったということだ」(ライト氏)

ライト氏は体験の重要性について、Amazon、Airbnb、Uberを例に挙げる。各社が取り組む事業は、突き詰めれば宅配、食品のデリバリー、人の輸送であり、それらは今まで存在しなかった新しいものではない。だが、各社はテクノロジーを活用することで、革新的でユーザーにとって良い体験を提供できたため、旧来からある仕事をDXし自社の利益に変換できたという。

ライト氏は、「顧客や従業員など、企業のステークホルダーが従来から体験していることに、どういった変革を起こせるかが問われる。どのテクノロジーを活用するかよりも、仕事が楽になり、生活や人生そのものが良くなることが重要だ。当社は、そうした革新性のある体験をエンタープライズソフトウェアにもたらしていく」と語った。

革新的な体験を提供すべく、ライト氏はNow Platformを3つの軸で成長させていく構想でいる。1つ目はスケーラブルで、さまざまな業界・ユーザーのニーズに対応できるようユースケースの収集を今後も積極的に行う。

2つ目は自動化の改善だ。既存機能に生成AIを取り込んで、蓄積されたデータやナレッジをプロセスに生かし、バーチャルエージェントも活用する計画だ。3つ目は企業のステークホルダーが繋がった業界ごとのエコシステムを形成することで、Now Platformはそのためのハブとして成長させるという。