産業技術総合研究所(産総研)の人工知能研究センター 機械学習機構研究チームは、医療分野でのAI(人工知能)利用の研究開発を進めている。その中でも、病気の診断結果の説明・解析を支援するAI技術の1つとして、膀胱(ぼうこう)内視鏡の画像診断支援技術で研究開発成果を上げつつある。

この医療系での診断結果を説明するAIの研究開発を進めている機械学習機構研究チームは「膀胱の内視鏡診断AI支援技術の実用化に向けて成果を上げつつある」と、野里博和研究チーム長(図1)は現状を語る。

  • 野里博和研究チーム長

    図1 産総研 人工知能研究センターの機械学習機構研究チームの野里博和研究チーム長

これまでは、日欧米などでの内視鏡診断支援AI利用では消化器系での診断支援が進んできたが、「検査数が少なく、比較的医師不足の領域となる膀胱内視鏡での診断支援AIが現実的には必要不可欠」と野里研究チーム長たちは考え、膀胱内視鏡での診断支援AIの実現に向け、「高精度な画像診断支援モデルを構築し、成果を上げつつある」と語る。

同チームが開発している「膀胱内視鏡診断支援実証試験用プロトタイプシステム」(図2)は、病院で用いている内視鏡検査システムから検査対象の動画像を、シリアル・デジタル・インタフェース(SDI)ケーブルを介して収集。この収集した動画像データはキャプチャーユニットを介して、ノート型パソコンにリアルタイムで取り込まれるシステムになっている。このソフトウエア・システム系の開発・実用化では、「産総研が持つスーパー・コンピュータのAI Bridging Cloud Infrastructure(ABCI)を用いている」と野里チーム長は説明する。

  • 膀胱内視鏡診断支援実証試験用プロトタイプシステム

    図2 機械学習機構研究チームが研究開発中の膀胱内視鏡診断支援実証試験用プロトタイプシステム(画像は機械学習機構研究チームの説明資料から引用)

この膀胱内視鏡診断支援AI開発では、人工知能研究センターが開発したFDSL(Formula-Driven Supervised Learning:数式ドリブン教師あり学習)という手法を画像診断に活用しているために「事前の画像学習コストを抑えて、高精度な画像診断モデルを構築できた」という。また、「実画像を基に、AIが学習する従来のやり方はコストがかかることが難点とされてきたからだ」と、この研究開発のファンドを提供している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のロボット・AI部は説明する。

このFDSL利用の膀胱内視鏡診断支援AIの成績は「後期研修医相当の優れた画像診断成果を得ている」とのことで、「現状では、専門医よりは正解率はやや劣るものの、初期研修医よりは優れた成績を発揮している」と、現在の到達点を説明している。野里チーム長は「この診断支援検証デモンストレーションとデータ収集を同時に実施して精度を上げつつある段階」としており、各病院の膀胱内視鏡診断の専門医などとの相互支援を基に、医療機関との医工連携を進める構えだ。

  • 膀胱内視鏡診断の画像例

    図3 膀胱内視鏡診断の画像例(画像は機械学習機構研究チームの説明資料から引用)

なお、人工知能研究センターが開発中の膀胱内視鏡診断支援AIのプロトタイプ機器についてはNEDOが2023年2月16日から2日間にわたって開催したNEDO AI NEXT FORUM 2023という展示会にも出展され、注目を集めたほか、現在、この膀胱内視鏡診断支援実証試験用プロトタイプシステムのソフトウエアなどを知財として産総研が権利化を進めており、外部の医療機器などの開発者に事業化を進めてもらう見通しだという。実際に、筑波大学附属病院の医師グループがこの技術の事業化を目指してベンチャー企業の創業を目指して動き始めている最中だという。

筆者注:内閣府などが進めている、日本の「AI戦略2022」を基に、NEDOは「人と共に進化するAIシステムの基盤技術開発」として、具体的には「人と共に進化するAIシステムのフレームワーク」「説明できるAIの基盤技術開発」「人の意図や知識を理解して学習するAIの基盤技術開発」「商品情報データベース構築のための研究開発」の研究開発プロジェクトを進めることで、AI利用の研究開発を支援している。