Zoomは5月30日、「働き方改革サミット」と称した、職場におけるAIと人のつながりの交差点を考えるオンラインイベントを開催した。

同イベントにはZVC Global Zoom最高製品責任者のスミタ・ハシーム氏、ZVC JAPAN代表取締役会長兼社長の下垣典弘氏、早稲田大学 商学部 准教授の村瀬俊朗氏らが登壇し、現在および将来のコラボレーションの方法やつながり方に AI がどのような影響を与えるかを考え、対応策を発見するためのセッションを行った。

本稿では、その一部始終を紹介する。

  • ディスカッションの様子

ChatGPTは表から見ると「魔法」だが裏から見ると「技術」

最初に登壇したハシーム氏は、『INTELLIGENT AUTOMATION』の著者であるPascal Bornet氏を招き、ChatGPTに関する議論を交わした。

はじめにBornet氏は、AIの台頭により進化したジャンルとして「教育」と「医療」という2つの分野を挙げた。

「AIの進化によって、人間がより人間らしい生活を送ることができるようになったことは言うまでもありません。特に『教育』と『医療』という分野において、この恩恵は測りきれません。現在、世界を見てみると約90%の子どもが教育を受けていると言われていますが、100年前は20%のみでした。また、人生の長さで考えてみても、テクノロジーの進歩によって、約2倍の人生を満喫することができるようになったのです」(Bornet氏)

  • AIの進化について語るBornet氏

また、AIとデータベースを活用し、日常の必要のない会議や電子メールへの返信などを代替すれば、業務の3分の1ほどの「時間をかけてやらなくても良い業務」はなくなると言われており、その便利さは疑いようがないだろう。

しかし、ChatGPTをはじめとするAIに頼りきりになるのは危険だと、Bornet氏は警鐘を鳴らす。

「ChatGPTにはたくさんの利点がありますが、その一方で多くの弱点を抱えているツールでもあります。文字を打てば、必ず何か答えてくれるという仕組みは、表の部分だけを見ればまるで魔法のように感じられます。しかし、システムの裏側にまで目を凝らせば、ChatGPTは魔法ではなく計算とマッチングを繰り返す『技術』だということに気が付きます。それは、つまりツールに限界があるということなのです」(Bornet氏)

  • ハシーム氏とBornet氏の討論の様子

そのため、ChatGPTは何でも応えてくれる「魔法」のような存在ではなく、あくまで業務を手伝ってくれる「アシスタント」のような位置づけだということを覚えておく必要性があるという。

偏った知識で学習したAIはその結果にも偏りが発生してしまう上、使用者側に専門的な知識がなければ回答された結果が正しいかどうかも分からない。そのため、Bornet氏は、学校の授業など子どもの手の届くところでChatGPTを活用することで、「ChatGPTは万能ではない」ということを子どもたちに学習してもらい、正しいかどうかを判断できるような大人になってほしいとの見解を述べた。

AIを活用する極意は「新しいものを受け入れる心構え」

続いてのセッションでは、下垣氏と村瀬氏が登壇し、「これからの企業文化、組織、コミュニケーションの在り方」というタイトルで、社会情勢の変化を受け、これからの新しい働き方はどのように適応すべきか、AI時代のコミュニケーションで大切なことは何か、これからの企業文化、組織の在り方で考えるべき視点は何かというテーマの下、ディスカッションを行った。

下垣氏は、働く場所を会社が提供していた時代から比べて、現在は働く場所を従業員も選ぶことができる時代になっているとして、個人の自由が広がれば広がるほど職場の環境を整えるのが難しいという現状を語った。

「ハイブリッドワークを行いたいという会社員が数多く存在する一方で、人とのつながりが希薄になったことに不満を覚える声も多く挙がっています。仲間に会いたいという気持ちと効率よく働きたいという従業員の気持ちに寄り添って、どうバランスを取っていくか、またどういう接点を持つかを考えることが、働き方の多様性の第一歩だと思います」(下垣氏)

  • 働き方の多様性について語る下垣氏

また、村瀬氏はAIを活用することによってコミュニケーションに大きな変化が起きると語った。

「職場で業務を行っている時、意識は大体10メートル程度の範囲でしか機能していません。社内にはさまざまな知識や経験を持っている人がいるにもかかわらず、その存在に気付けていないのです。しかし、『適切な人材を探してくれる』という点においてAIはかなり優秀です。AIを活用することで、自分の求めるスキルを持った人物とつながり、横のつながりを強固なものにすることができるようになるのです」(村瀬氏)

  • 職場でのAIの活用方法を語る村瀬氏

このようにさまざまな視点からAIが浸透した時代の働き方について討論した両者だったが、AI活用の最も重要なことについては、二人とも口をそろえて「新しいものを受け入れる心構え」だと語っていた。

AIを生かせるかどうかはその人であり、その根源にあるのは、AIを怖いものだと思うのではなく、「何ができるツールなのか」を見極め、積極的に活用していくチャレンジ精神なのではないだろうか。