東海旅客鉄道(JR東海)は5月24日、東海道新幹線の運用のため綱島周波数変換変電所に設置されている2台の回転型周波数変換装置(FC)を、2037年度までに省エネルギー性や省メンテナンス性に優れる静止型に置き換え、すべてのFCを静止型とすることに決定したと発表した。

東海道新幹線では、全線にわたって周波数60Hzの電気によって列車を走行させており、周波数が50Hzである富士川以東の地域では、電力会社から受電した電気を、回転型および静止型の2種類のFCによって60Hzに変換している。

回転型FCは、東海道新幹線の開業以来設置されてきたFCであり、大型のモータと発電機を組み合わせて周波数を変換する装置だ。回転型FCは架線の地絡(架線に鳥や蛇などの介在物が接触した場合に、電流が地面に流れること)などによる瞬間的な大電流や、ダイヤの乱れなどによる過負荷(多数の列車が同時に加速した場合などに、機器の性能を超える電流が流れること)が発生しても、電力供給を継続できるというメリットを有する。しかし、稼働時のエネルギーロスが大きいこと、メンテナンスに費用と期間がかかることが課題だった。

一方の静止型FCは、大電力を扱うパワー半導体を用いて周波数を変換する最新型だ。静止型FCは省エネルギー性や省メンテナンス性に優れていることから、同社ではこれまで回転型FCからの置き換えを順次実施してきたとする。しかしこれまでは、瞬間的な大電流や過負荷が発生すると、機器の保護のために自動的に電力供給を停止していたため、回転型FCを一部残さざるを得ない状況にあったという。

  • 回転型FC(左)、静止型FC(右)の特徴。

    回転型FC(左)、静止型FC(右)の特徴。(出所:JR東海プレスリリースPDF)

そうした中で今回、静止型FCでも瞬間的な大電流や過負荷に対応できる新たな技術が開発されたことで、すべてのFCが静止型に置き換えられることになったという。その新開発の技術の1つとして、架線の地絡などが発生した際でも電力供給を継続できるよう、静止型FCを制御して該当する回線の電圧を急激に下げ、電流を抑制する技術がある。またもう1つは、ダイヤ乱れなどで列車が集中する場合に、過負荷の発生を事前に予測し、回避するために必要な加速制限を自動的に算出するというものである。

  • 上段が従来の回転型FCが必要だった理由。下段が今回開発された静止型FC用の世界初の新技術の内容。(左)架線の地絡などによる大電力を抑制。(右)ダイヤ乱れなどによる過負荷を防止。

    上段が従来の回転型FCが必要だった理由。下段が今回開発された静止型FC用の世界初の新技術の内容。(左)架線の地絡などによる大電力を抑制。(右)ダイヤ乱れなどによる過負荷を防止。(出所:JR東海プレスリリースPDF)

これにより、綱島周波数変換変電所に残されていた2台の回転型FCも最新の静止型FCに置き換えることが可能となったという。この2台が静止型FCとなることで、東海道新幹線のFCはすべて静止型FCとなる。

JR東海によると、回転型FCから静止型FCへの切り替えによって、まず年間約4千万kWhの電気使用量、年間約2万tのCO2排出量を削減できる省エネ効果が期待されるとする。また、回転型FCと比較して静止型FCは可動部分が少なく構成部品も少ないため、メンテナンスの省力化が見込めるとしている。これにより、将来的に労働力人口が減少していく中でも、メンテナンス体制を維持しやすくなるという。そしてこの省エネ化と省メンテナンス化により、年間約9.8億円のコスト削減を見込めるとした。

切り替えのスケジュールについては、新3号静止型FCが2032年度末に、新2号静止型FCは2037年度末にそれぞれ運用開始予定。新2号静止型FCの運用開始をもって、東海道新幹線の全FCの静止型化が完了となる。なお、工事費は約268億円となっている。