TDCソフトは5月19日、オンラインでメディア向けに大規模組織むけアジャイルフレームワーク「SAFe」(Scaled Agile Framework)の勉強会を開催した。

同社では2019年にSAFeを提供する米Scaled Agileとパートナー契約を締結し、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む国内のエンタープライズ企業に向けて、導入コンサルティングやトレーニングサービスを提供してきた。

TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 部長の國政仁氏は「グローバルではアジャイルを開発だけでなく、組織レベルで適用してビジネスアジリティを拡大させており、事業を高速で回しながらビジネスを拡大していくことが当たり前のようになっている。海外の成功事例でもアジャイルを組織に取り入れていく動きがあり、日本国内でも必然的に起こっていくだろう。国内における大規模なアジャイルの浸透に貢献し、お客さまのビジネスアジリティに寄与していきたいと考えている。組織レベルにおける大規模なアジャイルは、何らかの道しるべとなるフレームワークが必要となり、SAFeがそれを担う」と述べた。

  • TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 部長の國政仁氏

    TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 部長の國政仁氏

アジャイルフレームワーク「SAFe」とは

続いて、TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 SAFeコンサルタントの真川太一氏がSAFeについて説明した。同氏はSAFeを「お客さまに価値を素早く届け続けるチーム・組織をつくりあげる『ビジネス・アジリティ』を獲得するためのナレッジ・プラクティスを含めたフレームワークだ。経営と事業、現場の仕事をつなぐとともに、経営とビジネス、ITの関係性をつなぐもの」と位置付けている。

  • TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 SAFeコンサルタントの真川太一氏

    TDCソフト エンタープライズアジャイル事業部 SAFeコンサルタントの真川太一氏

単にビジネスアジリティはビジネスの俊敏性と訳されるが、そう簡単な話ではなく、市場ニーズをいち早く掴む能力や迅速に意思決定する能力、見込みから外れた計画をすぐに修正する能力、問題が生じた業務を素早く特定して修正する能力をはじめ、多様な組織能力を融合することで総体として発揮されるものがビジネスアジリティだという。

昨今、国内では2025年の崖やGAFAMの台頭、ビジネスアジリティが先行する欧米企業などに対し、危機感があることから日本企業にもビジネスアジリティが求められていると、真川氏は認識を示した。

同氏は日本企業の現状として、従来のプロセスを変えずに小手先のITで変えようとしているほか、従来型マネジメントのままDXを進めようとしており、変革の結果(成果)を外部に要求し、仕方なしに形だけ取り組もうとしていることなどを指摘。

また、企業内では時間を有効的に活用できていなことに加え、組織によりバラバラのやり方のため各種調整が必要で、複雑性とともに遅延が発生するようになっており、企業内におけるさまざまな価値の流れをいかに早く、迅速にできるかがカギを握るという。

その点、SAFeは組織がビジネスアジリティを獲得するために、提供する製品やサービスの価値を顧客ニーズに合わせて、早く、効率よく、品質を高めながら届けられるようになるために、さまざまなプラクティスをまとめており、最適化された役割、プロセス、考え方、導入方法がまとまっている。

  • SAFeの概要

    SAFeの概要

真川氏は、その本質について「基本的には組織内に50~125人ほどの大規模な仮想組織を構成し、1つの単位として動かしていく。これらの組織がビジネスアジリティを出すために必要なことは、透明性を高め、無駄なプロセスをなくし、全員の足並みを揃えることが重要だ。そこで、SAFeは同じ考え方・言葉が共通のOSとして働き、原理原則・マインドセットが記載されている。これが実現できるようになってくると、従来は能力に見合わない要求で混乱や待ちが生じて仕事が終わらなかったが、要求と能力のバランスを一致させることで仕事を終わらせることが可能だ」と説く。

SAFeで実現できること

現在、SAFeはグローバルにおいて100万人がトレーニングを受講し、2万社以上への導入、パートナーは500社となっている。LeSSやScrum@Scale、DADなどの競合他社のフレームワークと比較して、トレーニングにフォーカスしているため導入コストは中~高ではあるものの、情報・サポートは手厚く、考え方の基礎としてはリーン、アジャイルとなる。

  • SAFeの導入状況

    SAFeの導入状況

そして、真川氏「SAFeは、複数のアジャイルチームが無駄なく(リーン)、素早く柔軟(アジャイル)に全体最適を考えながら、価値提供するための活動(計画、実行、測定、調整)の考え方、役割、プロセスが定義されている」と念を押す。

具体的には「原理原則・マインドセット」「チーム、役割」「プロセス」の3つで構成されている。

原理原則・マインドセットでは全員の足並みを揃えるため、なぜ?に対して10項目をまとめた「SAFe Lean-Agile Principles」により、行動の統率を取ることにつなげるとともに、リーン、アジャイルのマインドセットと仕組みを備えている。

  • リーン、アジャイルのマインドセットと仕組みを備えているという

    リーン、アジャイルのマインドセットと仕組みを備えているという

チーム、役割については、価値創出を目指すスクラムマスターやプロダクトオーナー、開発者など組織横断のスクラムチームに加え、全体の推進役、システムアーキテクチャ、ビジネス責任者といった推進させるための専門の役割を持つAgile Release Train(ART)を組成。

この中で仕事の管理単位を「Epic(エピック)」「Feature(フィーチャー)」「Story(ストーリー)」と、各役割と責任に応じて、理解していく仕事の関係性、大きさ、範囲を定義してもれなく関係性を可視化するという。

  • 役割と仕事連携し、可視化する

    役割と仕事連携し、可視化する

プロセスに関しては、認識のズレや取り戻す時間、情報共有目的だけの会議など、無駄を極力排除して価値の創出時間を最大化させるプロセスを回す。これは、PI Planningと呼ぶ、3カ月に1回、ARTの参加者全員が集まり、直近3カ月仕事の計画、実行のコミットを行うイベントを開催し、その後は計画の現状と微調整→動くもので事実確認→次に向けての準備→3カ月振り返りを行うというものだ。

  • 無駄を排除したプロセスを回す

    無駄を排除したプロセスを回す

SAFeの導入に向けた8ステップ

ただ、国内での浸透は欧米と比べれば、まだまだな状況だ。広まらない理由について、真川氏は「圧倒的な危機感・意識の不足が挙げられる。それぞれのレイヤで危機感を持っていいたとしても経営と現場の想いがつながっていない」との見解を示している。

そのため、SAFeの導入に向けて(1)「危機感・課題の気づき」、(2)「変革チーム、組織化」、(3)(4)「ビジョン、目標設定、周知徹底」、(5)「自発的な行動」、(6)「小さな成功」、(7)(8)「さらなる展開とSAFeの文化定着」の変革の8ステップを踏むべきだという。

  • 変革に向けた8ステップ

    変革に向けた8ステップ

そのため、SAFeでは「Implementation Roadmap」として導入プロセスを定義。同氏は「まずはやると決めて、仲間を増やし、改善点の選定、実行計画の立案、準備・事前段取りして、実行するということを繰り返し、ノウハウが蓄積したら次に広げ、経営プロセスにも広げ、企業全体にひろげるものだ。危機感を抱いて動き出し、リーダーが思いを持ってビジョンを作り上げて発信していくことがポイントとなる」と説明した。

  • 導入のイメージ

    導入のイメージ

また、SAFeのベストプラクティスは基本の進め方として活用し、自社の現状に合わせて肉付けしていくことに加え、変革推進者を集めたLACE(Lean-Agile Center of Excellence)を組織化し、組織のビジネスアジリティ達成に向けて推進する必要があるとも話している。

勉強会の終盤に、真川氏は日本企業にとってのSAFeについて「一度決めると愚直に守ろうとする国民性があり、SAFeのマインドセットや考え方が組み込まれるだけで強い組織となるため日本企業に向いているのではないか。しかし、それぞれのレイヤで変わりたいとは思っているが、ベクトルが合っていないため可視化するだけでも一歩となる。そして、制度や規制に影響している部分も多いほか、新しいことにチャレンジする時間がないことなどが弊害になっているため、余裕を持って取り組むことが必要だ。変革の一歩として、従来とこれからのマネジメントの違いを知ることからスタートすることが望ましい」と提言していた。