千葉大学松戸キャンパスにて5月17日、「宇宙園芸研究センター」の開所式および、開所記念シンポジウムが開催された。同センターでは、人類が宇宙環境で活動していく上で必要不可欠な食料生産の栽培技術の研究が進められる予定だという。

  • 千葉大が新設した「宇宙園芸研究センター」の開所式の様子

    千葉大が新設した「宇宙園芸研究センター」の開所式の様子。中央が中山俊憲千葉大学長

ispaceの「HAKUTO-Rミッション1ランダー」が日本で初めて月面着陸の目前まで迫るなど、近年宇宙に対する注目が国内でも高まりつつある。その中で、アメリカを中心として進んでいる「アルテミス計画」では、人類を月に送るだけでなく、月面拠点を建設し長期的に生活することを想定。2030年代には100~1000名程度が月面に居住することが計画されており、その際の食料供給をどう確保するかについても研究が進められている。

日本もアルテミス計画には参加しており、日本人宇宙飛行士も月面に降り立つことが期待されている。そうした背景もあり、そこで、国立大学として唯一、園芸学部を開設している千葉大学は、宇宙環境にて食料を継続的に生産できる技術についての研究を進めていくことを目的に宇宙園芸研究センターの開所を決定したとするとした。

開所式冒頭、千葉大学の中山俊憲学長は、宇宙園芸センター設立に際し、「今後さらに発展が予想される宇宙産業における研究で世界を牽引していくことで、社会に貢献したい」との意気込みをみせた。

また、同センターのセンター長に就任した髙橋秀幸 同大特任教授 は、研究で得た宇宙環境における食料生産の技術成果を、宇宙に限らず地球上にある食料問題の課題解決にも繋げていきたいとした。

  • 月面植物工場に向けた千葉大の植物生産システム・栽培研究

    月面植物工場に向けた千葉大の植物生産システム・栽培研究

月面では外界とは遮断された環境の中、人手を介さずに作業ロボットを活用して食料を生産していくことが想定される。また近年、世界では人類が生きていくのに必要な栄養素や量の研究も進んでおり、1人当たり80m2の植物工場があれば生きていけるという試算も出されているという。すでに世界では、同大でも生産研究が進んでいるリーフレタスに加えて、小松菜・ほうれん草・バジル・しそなど20種類ほどの生産に成功しているとする。一方で、栄養がある穀物やマメ、イモ類などの生産は難しく、継続して研究が進められている最中だともしている。近年では、果菜類の中でイチゴの栽培に成功している国が多く、国によってはそれに名前を付けて販売しているところもあるという。イチゴはポリフェノールが含まれており栄養面に優れているほか、甘みがあるため無味の葉物に比べ、月面生活において精神的にも嬉しい食材として注目されている模様である。

  • 宇宙品種・育種生産技術の開発

    宇宙品種・育種生産技術の開発

なお、宇宙園芸研究センターは宇宙園芸育種研究部門、高効率生産技術研究部門、ゼロエミッション技術研究部門の3部門に分かれており、学内はもちろん宇宙航空研究開発機構(JAXA)や民間企業などの学外連携も交える形で研究を進めていくとしている。具体的な研究内容は、低圧・低重力の宇宙環境下においても効率よく収穫できる食料生産技術の開発や、植物工場の自動化技術、すべての廃棄物を有効活用し循環させるシステムなどが想定されており、そうした研究を同センターにて進めていくことで、将来の月面空間で人類が心身ともに健康で生活することを目指すとしている。