ゲームなどのエンターテインメント業界から広がったメタバースだが、ここにきて、企業や自治体でも利用が進み始めた。小売業界ではブルボンがメタバースを活用しており、また、金融業界ではSBI新生銀行がメタバースモールアプリを用いてバーチャル出店している

こうした中、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は自治体と共に、メタバースの活用にチャレンジしている。本稿では、同社と埼玉県戸田市、奈良県宇陀市との取り組みから、自治体におけるメタバースの有効活用の道を明らかにしてみたい。

メタバースで自治体の課題を解決

CTCでは、メタバースに関わるビジネスを担当するチームが2つ存在する。1つは企業を対象にメタバースを実現するための3Dデータ制作基盤を提供しているチームで、もう1つが自治体を対象にメタバース空間を運営しているチームだ。今回、取材に対応してもらったのは後者のチームとなる、未来技術研究所 スマートタウンチームの方々だ。

未来技術研究所 スマートタウンチーム長 三塚明氏は、「スマートタウンチームは自治体に向けて、地域活性に役立つサービスを作っています。既存の仕組みを使いながら、メタバース空間として『CTC Digital Base』を運営しています」と語る。

  • 未来技術研究所 スマートタウンチーム長 三塚明氏

CTCは2年前からメタバースを使うビジネスを模索していたが、自治体の課題解決に寄与できるのではないかと仮説が出てきたという。未来技術研究所 スマートタウンチーム 主任の吉留健太氏は、「メタバース空間では、外部の人に情報を発信することに加えて、アバターを使ってコミュニケーションすることで新しい環境を作ることができます。また、高度なPCのスキルがなくても使える点も、自治体がメタバースを介してサービスを提供する上でメリットがあると思います」と説明する。

  • 未来技術研究所 スマートタウンチーム 主任 吉留健太氏

ビジネス展示会のブースでは人が人を呼ぶ

CTCは2021年9月25日・26日に、埼玉県戸田市と「CTC Digital Base」を利用した市民イベントを開催した。同イベントでは、バーチャルでのサッカー体験や花火大会の実施に加え、市内企業14社によるPRコーナーも展示会場に設けられた。

  • 埼玉県戸田市が2021年9月に開催した市民イベントの様子

さらに2022年5月、埼玉県戸田市とメタバースを活用したビジネス展示会「VIRTUAL EXPO in TODA」の実証実験を行った。「VIRTUAL EXPO in TODA」において、参加者はインターネット上のアバターを通して参加し、ブースを巡ったり、マイクを使用して音声で会話したりすることができた。

吉留氏は、戸田市との取り組みについて、「2021年はコロナ禍であったことから、ウェビナーでは参加体験が劣るということで、メタバースを活用して、臨場感があり、没入できるイベントを実証することになりました」と話す。

2回目となるビジネス展示会を開催した後、その結果を踏まえてプラットフォームを変えたそうだ。その理由について、吉留氏は次のように説明した。

「それまでのプラットフォームでは、アプリを動作させるためにスペックの高いPCが必要であり、さまざまな方が参加する自治体イベントには不向きと考え、違うソリューションに切り替えました。新しいプラットフォームはスマートフォンやWebブラウザからも利用でき、離脱率の件数が減りました。実証実験を通じて、ユーザビリティの良さがユーザー体験を左右すると痛感しました」

戸田市からは、「特定のブースに人が集まると、それに合わせて人が集まるなど、人がメタバースの中で動き回り、臨場感があった」という意見をもらっているとのこと。

また、出展社同士が親しくなり、企業同士のつながりもできたとのことで、メタバースの人と人をつなげる機能の実効性も検証されたようだ。