花王とマルホの研究グループは、研究協力機関である日本医科大学などの研究機関と共に、重症例を含む成人のアトピー性皮膚炎(AD)患者から採取した皮脂を解析し、ADの重症度に応じて変化する分子が皮脂中のRNAに含まれることを確認した。
同研究は、花王とマルホに加え、日本医科大大学院 医学研究科 皮膚粘膜病態学の佐伯秀久大学院教授、九州大学大学院 医学研究院 皮膚科学の中原剛士教授、広島大学大学院 医系科学研究科 皮膚科学の田中暁生教授、京都府立医科大学大学院 医学研究科 皮膚科学の益田浩司准教授らが参加した共同研究グループによるもの。今回の研究成果は2023年5月10~13日に開催される「International Societies for Investigative Dermatology(ISID 2023)」にて、広島大の田中教授より発表される予定だ。
AD治療は、症状に合わせた処置をするため重症度を適切に評価することが必要であり、現在は評価指標の1つとして血液中のTARC(thymus and activation-regulated chemokine)の値が使用されている。しかし、採血は採取場所の制限や痛みを伴うほか、近年ADの治療薬投与時にTARCの値が想定外の数値挙動を示すことがあり、ADの重症度を反映しない場合があるという。そのため、肌を傷つけることなく、簡便かつ正確にADの重症度を把握する新たな技術が望まれていた。
そこで2019年に、花王が報告したのが、皮脂RNAモニタリング技術である。同技術は、肌を傷つけることなく顔の皮脂から簡便にRNAを採取し解析できるもの。これまでに同社は、皮脂中のRNA情報が成人および乳幼児患者の特徴を反映することを報告している一方で、これらの研究は軽症または中等症のADを対象にしたものであり、重症のAD患者も含めた重症度判定技術を活用するにはさらなる研究が必要であったという。そこで今回、花王とマルホなどの研究グループは、重症のAD患者から皮脂を採取し、皮脂RNAの特徴把握と重症度に伴って変化する因子の確認を行うに至ったとする。
研究グループは、ADの重症度に関連する情報が皮脂RNAに反映されているかを検証するため、健康成人、軽中等症AD、重症AD患者から皮脂RNAを採取し、ADに関わる分子の発現情報を主成分分析で可視化したとのこと。なお主成分分析では、特徴が似ているもの同士が近い距離にプロットされる。
この分析の結果、健康成人・軽中等症AD・重症AD患者同士は近い距離に存在した一方で、健康成人との距離は軽中等症ADから重症ADへとADの重症度に伴って離れることが明らかになったという。つまり、皮脂RNA発現情報はADの重症度を反映することが示唆されたとしている。
また、GSVA(Gene Set Variation Analysis)を用いてバリア機能に関連する遺伝子セットの発現高低を検体ごとにスコア化したところ、各遺伝子セットのスコアはAD重症度に伴って低下することが判明。さらに、ADに特に関与するとされるCCL17遺伝子の皮脂RNA発現量は、AD重症度に伴って段階的に上昇することが確認されたという。
花王は今回の研究により、ADの重症度に伴って変化する分子の中に、ADの病態と密接に関連するものが含まれていることが明らかになったとする。そして、皮脂RNAモニタリング技術が軽症から重症ADまでの症状を評価できる可能性があるとしている。花王とマルホは、皮脂RNAによって患者一人ひとりに最適な治療方法を提供できるよう、今後も皮脂RNA解析技術を活用しながら、成人ADを対象として新たな検査方法の確立をめざし研究を進めていくとした。