パナソニックコネクトは5月10日、同社の100%子会社である米Blue Yonder(ブルーヨンダー、以下Blue Yonder)の事業戦略に関するオンライン説明会を開催した。
Blue Yonderは、SCM(Supply Chain Management)ソリューションをSaaS(Software as a Service)で提供する企業だ。パナソニックコネクトは2021年9月に同社を買収した。
説明会では2023年度から3カ年計画で、Blue Yonderに対して総額2億ドルの投資を実施する計画とその詳細が紹介された。
SaaS事業強化のために積極的な投資を優先
説明会の冒頭では、パナソニックコネクト CEOの樋口泰行氏がBlue Yonderに対する期待を語った。
「製造、物流、小売りの現場プロセスを変革するという当社のビジョンやソリューションと、Blue Yonderのビジネスとの親和性は高い。加えて、パナソニックのハードウェア中心の既存ポートフォリオに対して、ソフトウェア、特にSaaS事業を組み込むことの戦略的意義は大きく、パナソニックグループの企業価値向上にとってBlue Yonder事業は重要だ」と樋口氏。
樋口氏によれば、パナソニックコネクトの買収前、Blue Yonderは投資ファンドの傘下でどちらかというと短期志向の投資・事業が進められていたという。現在、Blue Yonderはマネジメントの刷新や採用増などによる営業力強化を進めるほか、共同ソリューションの開発をはじめとしたパナソニックグループとのシナジー創出など、中長期視点での事業基盤構築に取り組む。
パナソニックコネクトは、Blue Yonder事業に対して今後、2つの領域で投資を行っていく方針だ。
具体的には、売り上げの成長を支える拡張性のあるSaaSプラットフォームの構築を進める。また、カスタマーエクスペリエンスの差別化と収益性向上に向けたリソースを確保し、ビジネスオペレーションの最適化を目指す。
一方、2023年度は追加戦略投資として84億円、シナジー投資として28億円を費用計上するため、Blue Yonderの調整後営業利益はマイナスの予想となる。だが、パナソニックコネクトでは、Blue Yonder事業で一定の売り上げを達成するために、「単年度の収益を抑えてでも積極的な投資をする」方針だという。
樋口氏は、「SaaS基盤構築に向けた追加戦略投資を除いた実力値ベースでは、2023年度は増益となる予想だ。SaaSビジネスの加速度的な成長のためには基盤構築への投資が肝要となる。新規受注数やリカーリング売り上げの伸びなどをKPI(重要業績指標)として、パナソニックグループの下でBlue Yonderの長期成長を実現したい」と意気込んだ。
スイート製品とコグニティブアプリケーションに注力
Blue Yonderは2023年5月2日~5日(米国時間)にユーザー向けカンファレンス「ICON 2023」を実施し、米Snowflakeとの連携強化や米Accentureとのパートナーシップ拡充などを発表した。
Blue Yonder CEOのダンカン・アゴーブ氏は製品開発の方向性について、「Snowflake Data Cloudというシングルデータクラウドを用いて、データやアプリケーションにエンドツーエンドで接続できるスイート製品の提供に力を入れる。また、現場作業者や商品カテゴリー責任者を支援するコグニティブアプリケーションの提供も強化する」と語った。
コグニティブアプリケーションについては、ユーザーの意思決定や作業を支援するCopilot(コパイロット、副操縦士)をイメージしているという。
例えば、ユーザーマニュアルや業務の概念設計などのトレーニングを行ったアプリケーションを提供し、経験の少ない作業者がベテラン作業者と同様に在庫管理や商品発注作業などができるよう補助するといった活用例が挙げられた。
併せて、優れたCX(カスタマーエクスペリエンス)の提供、PURE SaaS構築、ソリューションの近代化、GTM(Go To Market)戦略の加速など、7つのVCP(Value Creation Plan)をベースに事業変革を進める方針が発表された。
「PURE SaaS構築では、マルチテナント型アプリケーションの拡充に注力する。7つのVCPに定期的に投資を実施していく」とアゴーブ氏は説明した。
2023年度以降の投資方針については、総額2億ドルの投資を実施する3カ年計画が発表された。今後はVCPの方針に則って販売、製品、クラウド化、カスタマーエクスペリエンス、オペレーションの5つの領域に投資をしていくという。
販売能力強化に向けては、コマーシャルエクセレンスプログラムというセールスの生産性向上プログラムを新たに開始する。製品については、統合されたスイート製品を2023年末までに拡充し既存顧客のアップセル・クロスセルを図るほか、SaaSのマージン最適化にも着手するという。
カスタマーエクスペリエンス向上に向けては、コンサルティングチームを組織して顧客サポート活動を行う予定だ。このほか、Blue Yonder社内のオペレーション最適化のため、生産性・効率性向上をサポートするマネジメントシステムを新規に導入するという。