チームラボといえば革新的で華やかなデジタルアートを次々に生み出すことで知られるアート集団だ。世界中に多くのファンを抱えており、現在東京で開催されている「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」を訪れる観客のほとんどは海外からの観光客だという。一方で同社はソリューション事業も展開。クライアントワークとして数多くのWebサービスやアプリの開発を手掛ける一面も持っている。

そんなチームラボの特徴とも言えるのが「営業を行わず、売上目標も持っていない」こと。一般的な会社としてはおよそ考えられないスタンスだが、“あのチームラボ”なら納得してしまう人も多いのでは。

4月18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム DX Day 2023 Apr. イノベーションのかたち」にチームラボ 取締役の堺大輔氏が登壇。同社の組織や、拡大の足跡について語った。

営業人員を持たない職人集団

堺氏はチームラボ創業メンバー5人のうちの1人に数えられる人物だ。チームラボが展開するアート事業とソリューション事業のうち後者を統括。2001年の創業以来、22年にわたって同社の舵取りを担ってきた。

堺氏によると、チームラボは現在約1,000名のメンバーが所属しているという。うち70%がエンジニアであり、10%がデザイナー、カタリストと呼ばれるプロジェクトマネージャー的な存在が15%といった割合で、バックオフィスメンバーはごく少数だ。

特徴的なのが営業という職種を持たないこと。当然のことながら一般的な営業活動も行っていない。

「創業メンバーである僕ら自身がエンジニア出身だったので、営業というものが何なのかよく分かっていなかったんです。良いものをつくって、ちゃんとアウトプットを出し続ければ、良い結果や良いお客さまにつながると思ってここまでやってきました」(堺氏)

涼しい顔でそうコメントする同氏だが、むろん普通の企業ではそうはいかない。営業なしでチームラボが20年以上事業を継続できたのは、同社が制作するプロダクトが常に顧客の期待を上回るクオリティだったことや、世に送り出してきたアート作品が話題を呼び続け、実質的に同社の“顔”として露出していたことが大きいだろう。

そもそも同社の組織体制はシンプルかつ独特だ。1つのプロジェクトがスタートすると、まずはカタリストやエンジニア、デザイナーといったメンバーが専門性ごとにアサインされる。

また、プロジェクトチーム以外では同じ職種ごとの横のつながりもあるが、それ以外の組織体制は存在しないという。

例えばマネジメントにしても一般の企業では管理職など上の立場の社員が行うが、チームラボでは「教育できる社員の立場が上」ということはない。「教育が得意」ということはもちろんバリューとして評価はされるが、それは「システムに詳しい」といったスキルと同じく、あくまでも1つの特性として見ているそうだ。

「だからこそ、弊社ではプロジェクトマネージャーとは呼ばずカタリストと呼んでいるのです。プロジェクトマネージャーと言うと、どこか偉い感じがしてしまいますからね(笑)」(堺氏)

売上目標を立てない理由は「もっと大事なことがある」から

もう1つの驚くべきポイントは、同社が売上目標や中期経営計画、あるいは長期経営計画も立てていないことだ。まさに常識破りのスタイルだが、これには理由があると堺氏は言う。

「数字というのはパワーを持つんです。数字で目標を立ててしまうと、どうしても売上を上げようとしてしまう。その結果、お客さまに良い体験を提供するという本来の目的ではなく、数字のために必要のない機能を提案することにもなりかねません」(堺氏)

アートにしろソリューションにしろ、目先の利益を追うのではなく顧客の体験をいかに最高のものに仕上げるか。そこにフォーカスしてきたからこそ、同社は「チームラボ」というブランドを築き上げられたというわけだ。

「これはBtoBでも同じことです。もしも社内システムが使いにくかったら、社員のテンションが落ちてしまうでしょう。機能も重要ですが、それよりも体験を突き詰めた方が高く評価していただけるのです」(堺氏)

実際のところ、チームラボがソリューションとして手掛けてきたプロダクトは、どれも他社のプロダクトにはないユニークな体験を備えたものばかりだ。

チームラボが開発を手掛けたりそなグループのアプリは「使っていて気持ちいいバンキングアプリ」というコンセプトでUI/UX設計を徹底。他の銀行アプリと機能は同じでも、1つ1つの機能の利用体験がいかに心地の良いものになるかにこだわって設計された。その結果、アプリ利用者の数が急増し、現在ではATMや店舗利用数の2倍以上になっているという。

  • チームラボが手掛けたりそなグループアプリ