米国の宇宙ベンチャー「Relativity Space(レラティビティスペース)」は2023年4月12日、記者会見を開き、3月の「テラン1」ロケットの初打ち上げや、今後のロケット開発計画について説明した。

テラン1の打ち上げが失敗した原因についてはほぼ特定したとする一方、これ以上の開発や打ち上げを放棄し、大型の再使用ロケット「テランR」の開発に焦点を移すとした。

また、同社はロケットを丸ごと3Dプリントして製造することを特長としていたが、現時点では期待していたほどの大きなメリットがないとし、テランRでは使用率が下がることになった。

はたして3Dプリンター製ロケットとはなんだったのか。その実情を見ていきたい。

  • レラティビティが開発を発表した、大型ロケット「テランR」の想像図

    レラティビティが開発を発表した、大型ロケット「テランR」の想像図 (C) Relativity Space

レラティビティとテラン1

レラティビティスペース(Relativity Space)は2015年に設立された宇宙ベンチャーで、米国カリフォルニア州に拠点を置く。

同社は、3Dプリンターを使い、ロケットの構造やエンジンの大半を製造することを最大の特長としている。従来、宇宙分野での3Dプリンター使用は一部の部品のみに限られていたが、同社は大型の3Dプリンターを使い、ロケットの構造(乾燥)質量の実に約85%(将来的には95%)を造形することを目指していた。これにより、部品数は従来のロケットの約100分の1となり、製造にかかる人員や手間、時間を大幅に削減し、低コスト化、品質向上などを図っていた。

同社は、この技術の実証も兼ねて「テラン1(Terran 1)」という小型ロケットを開発した。テラン1は全長35m、直径2.3mの2段式ロケットで、両段とも、ロケットエンジンの燃料には液化天然ガス(メタン)を使う。メタンは安価なうえに入手性も高く、なにより高性能が期待できる。まだ世界的に開発途上の段階にあるが、ロケットに最適な未来の燃料と目されている。

高度185kmの地球低軌道に1200kg、高度500kmの太陽同期軌道に900kgの打ち上げ能力をもつ。打ち上げコストは約1200万ドルで、競合する他のロケットに比べて半額以下というきわめて安い価格を提示している。

テラン1は、今年3月23日に初打ち上げに挑んだ。第1段は計画どおりに飛行したものの、第2段エンジンの点火後、推力が上がらず、打ち上げは失敗に終わった。

レラティビティによると、これまでの調査で、ロケットのコンピューターからエンジンのメインバルブを開くように指令が送られたとき、予定よりもゆっくりと開いたことがわかったという。

また、推進剤をタンクからエンジンへ送り込むターボポンプが始動した際、燃料の液化メタンのポンプは予定どおりの圧力を生成したものの、液体酸素ポンプには問題があり、圧力が出なかったという。これは、ポンプの入口にガス化した酸素の泡があったことが原因とみられるという。

この2つの問題から、システム内の圧力と、エンジンの始動シーケンス中に推進剤が燃焼器とガス・ジェネレーターに到達するタイミングに影響が生じ、その結果、エンジンのガス・ジェネレーターは着火せず、エンジンはフルパワーに達しなかったとみられるという。

打ち上げそのものは失敗に終わったものの、レラティビティは、テラン1の開発を通じて、ロケットを開発して、試験し、運用する技術の実証や、それを可能にする社内インフラの構築など、必要な技術やノウハウ、経験を得ることができたとしている。

しかし、同社はそのままテラン1のさらなる開発、改良や、2号機以降の製造、そして打ち上げ運用に進むことは選ばなかった。テラン1は放棄し、その代わりに、より大型で、そして再使用可能な、新型の「テランR」ロケットを開発することを決めたのである。

  • 今年3月に打ち上げられた「テラン1」ロケット

    今年3月に打ち上げられた「テラン1」ロケット。初打ち上げながら大きな成果を残したものの、計画は破棄されることとなった (C) Relativity Space

テランR

同社が今回明らかにしたところによると、テランRは全長82.3m、直径5.5mで、1段目にはテラン1に使われていたものより強力な「エアオーンR(Aeon-R)」エンジンを13基、第2段には同エンジンを真空対応させたものを1基装備する。燃料に将来性のあるメタンを使う点は同じである。

第1段には制御翼や着陸脚があり、打ち上げ後、海上の船への着陸、回収が可能で、再使用することができる。再使用回数は20回だという。この再使用回数に耐えるため、人工知能ベースの合金発見ツールの助けを借りて開発した特殊なアルミニウム合金を使うとしている。

打ち上げ能力は、使い捨ての場合で地球低軌道に33.5t、第1段を再使用する場合で23.5tとしている。

初打ち上げは2026年を目指すという。

この方針転換に関して、テラン1を使った衛星の打ち上げを発注していた衛星インターネット会社「ワンウェブ(OneWeb)」や、衛星通信会社「イリジウム」は、歓迎と期待のメッセージを寄せている。

  • テランRの各部の説明

    テランRの各部の説明 (C) Relativity Space

テランRの開発構想自体は、2021年に明らかにされたが、このときはスペースXが開発中の「スターシップ」のような、有翼の第2段をもった完全再使用ロケットとされていた。それに比べると、今回発表されたテランRは、やや保守的な設計になったことは否めない。

とくに第2段の再使用に関しては、完全に諦めたわけではないとしつつも、現時点ではロスが大きく、経済的な不利が大きくなるため、当面は使い捨てでいくことを決めたとしている。

今回明らかにされたテランRは、むしろスペースXの「ファルコン9」から大きく影響を受けていることが窺える。

もっとも、ただ単にファルコン9を模倣したわけではない点には注目したい。たとえばファルコン9は地球低軌道に使い捨ての場合で23t、再使用する場合で17tの打ち上げ能力をもち、第1段は約10回の再使用が可能とされているが、テランRは打ち上げ能力がより大きく、目標とする再使用回数も多い。つまり、ファルコン9を指標として、より大型の衛星の打ち上げや、より低コスト、柔軟な運用ができるようにしたいという意図が読み取れる。

また、第1段機体の側面には、ほぼ機体の全長と同じ長さのエアロストレーキが取り付けられており、このおかげで大気圏への再突入時から降下時にかけて、迎え角を高く取ることができ、減速に必要な推進剤の量を減らすことに役立つという。このほかにも、第1段機体を再使用するための技術を最適化し、他の再使用ロケットと比較して、軌道への打ち上げ能力を増やすとともに、コスト削減、打ち上げ頻度の向上を果たすとしている。

  • テランRの第1段機体の想像図

    テランRの第1段機体の想像図。スペースXのファルコン9ロケットのように、着陸して回収し、再使用できる。そこには単なるファルコン9の模倣ではない、独自の工夫も見える (C) Relativity Space