東京工業大学(東工大)は4月28日、充填トリジマイト型構造を持つアルミン酸バリウム「BaAl2O4」内の酸素の一部をヒドリドイオン(H-)に置き換えたエレクトライド「BaAl2O4-xHy:e-z」をコバルト(Co)触媒の担体として用いると、既存のルテニウム(Ru)触媒よりもはるかに高いアンモニア(NH3)合成活性が実現することを発見したと発表した。

同成果は、東工大 物質理工学院 材料系のジャン・イーハオ大学院生、同・大学 元素戦略MDX研究センターの北野政明教授、同・細野秀雄栄誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

窒素肥料や窒素含有化成品の減量であり、化学産業の基幹物質でもあるNH3は現在、ハーバー・ボッシュ法により大量生産されているが、高温(400℃~500℃)・高圧(10MPa~30MPa)を必要とするためエネルギー消費が多く、二酸化炭素(CO2)も大量に排出されてしまう。そのため、CO2を排出しない方法で生成した水素を利用しながらNH3を合成する「グリーンアンモニア合成」の実現が強く求められている。

低温・低圧の温和な条件下でのNH3合成で、最も高い活性を示す触媒として知られているのがRuだ。さらに近年になって、H-を有する触媒材料が、Ruなどの遷移金属触媒上でのNH3合成を大幅に促進できることもわかってきた。

しかしRuは貴金属であるため、実用面で課題が残る。さらにこれまでのH-を有する材料の大半は、大気に暴露すると、酸化が非可逆的に進むため、触媒活性が大幅に低下する点が課題だった。そのため、非貴金属のCoなどを触媒に利用し、NH3合成を大幅に促進できる安定な材料が求められていた。そこで研究チームは今回、充填トリジマイト型構造を有するBaAl2O4に着目し、同物質の一部の酸素をH-で置き換えたという。

その結果、結晶中の間隙ケージ部分に電子を安定化し、電子が陰イオンとして機能するエレクトライド化できることが見出されたとする。そして元素分析を行ったところ、この新物質の組成は「BaAl2O3.66H0.40:e-0.28」であることが判明したとしている。

続いて、BaAl2O3.66H0.40:e-0.28を担体として用い、それに触媒作用を持つCoを担持したCo/BaAl2O4-xHy:e-z(以下「新触媒」)を触媒として用いて、NH3合成を行った。

CoはRuと比較して窒素解離能力が低く、400℃以下・9気圧という温和な条件下では、効率よくNH3を合成できない。しかし新触媒は、この条件下でも効率よくNH3を生成し、BaAl2O4にCoを担持した触媒(Co/BaAl2O4)よりも100倍以上高い性能が示されたという。さらに、新触媒が必要とする活性化エネルギーは、Co/BaAl2O4触媒が必要とするエネルギー(100.5kJmol-1)の約半分となる48.9kJmol-1で、低温でも効率よく働くことが示されたとする。

  • (左・a)充填トリジマイト型構造を取るBaAl2O4の結晶構造。(左・b)BaAl2O4-xHy:e-zの結晶構造。(右)各触媒のアンモニア合成速度の反応温度依存性(反応圧力:9気圧)。

    (左・a)充填トリジマイト型構造を取るBaAl2O4の結晶構造。(左・b)BaAl2O4-xHy:e-zの結晶構造。(右)各触媒のアンモニア合成速度の反応温度依存性(反応圧力:9気圧)。(出所:東工大プレスリリースPDF)