宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)の月面探査計画「ハクトR」の着陸機が日本時間26日未明、月面への軟着陸を試みたが、通信が途絶え失敗した。降下の最終段階で高度のデータに誤差が生じたため、燃料が切れて月面に激突したとみられる。地球出発から到着まで政府機関ではなく、民間の力による世界初の月面着陸を目指したが、かなわなかった。
着陸機は26日午前0時40分頃、高度100キロを南北に回る軌道から主エンジンを逆噴射し、減速して降下を始めた。小型エンジンで姿勢を調整して航行後、高度約2キロで着陸のため垂直姿勢を確立した。最終段階では、補助エンジンにより減速して降下し、午前1時40分頃に月の北半球中緯度の「氷の海」に軟着陸する計画だった。ところが、予定時刻を過ぎても着陸検知の信号を地上で確認できなかった。
その後の解析で、実際に補助エンジンで降下し減速したものの、燃料を使い果たしたことや、速度が急上昇したことが分かった。降下中に高度のデータがゼロとなる一方、着陸を検知する信号が得られなかった。このことから同社は、高度データに誤差が生じた状態で降下して着陸態勢に入ったため、燃料が切れて逆噴射が続かなくなり、月面にハードランディング(硬着陸、激突)した可能性が高いとみている。着陸作業前、燃料の残りが十分であることは確認したという。
26日午前に会見した袴田武史最高経営責任者(CEO)は「月上空で全ての軌道制御を行うところまで、成功を積み上げた。着陸に至らなかったが、そこまで通信を確立しデータを獲得したことは非常に大きな達成。次の計画では確実に成熟度を上げられる」と述べた。
着陸機は昨年12月11日に米スペースX社のロケット「ファルコン9」で地球を出発。アポロ宇宙船などに比べ時間はかかるが燃料を節約できる「低エネルギー遷移軌道」を採用し、4カ月半かけ月面を目指した。脚を広げた状態の高さが2.3メートル、幅2.6メートル、燃料を除く重さ340キロ。アイスペースが独自に設計し、ドイツの民間施設で同社が主導して組み立てた。
機体にはアラブ首長国連邦の探査車、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタカラトミーなどが開発した超小型変形月面ロボット、日本特殊陶業の試験用の全固体電池などを搭載していたが失われた。
アイスペースは先代の計画「ハクト」で米財団の月面探査レースに参加したが、2018年3月の期限までに達成できなかった(勝者なし)。ハクトRは16年から構想し、翌年に開発を開始した。今回の「ミッション1」に続き、24年に着陸機に独自の探査車を搭載する「ミッション2」を計画。さらに、米民間機の設計に参画し25年に着陸させる計画で、月面事業の拡大を目指すとしている。
無人機の月面着陸は旧ソ連と米国、中国が果たしているが、いずれも政府の活動。民間では、米企業が探査車などを積んだ着陸機を、来月にも打ち上げるとされる。
政府機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今年8月以降、精密着陸技術の実証機「スリム」を国産大型ロケット「H2A」で打ち上げ、日本独自の月面着陸に挑む。今年度初頭に予定したが、3月にH2Aの後継機「H3」1号機が打ち上げに失敗した影響で遅れている。
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