NTT東日本 グループと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、やはり電話をはじめとする通信事業だろう。では、同社が今、スリープテック事業を手掛けていることはご存じだろうか。「なぜ、NTT東日本グループが睡眠をビジネスに?」――そんな疑問を抱く方も少なくないはずだ。睡眠という日常に密接した分野で自社のテクノロジーを駆使し、同社は何をしようとしているのか。NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部 スリープテック事業ディレクターの尾形哲平氏にお話を伺った。

  • NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部 スリープテック事業ディレクターの尾形哲平氏

なぜ、スリープテックだったのか?

――尾形さんがスリープテック事業を手掛けるきっかけは何だったのでしょうか。

尾形氏:当社は通信ビジネスを事業の柱にしています。しかし、柱である通信ビジネスの成長が鈍化してきている現状を前に、教育や医療といった専門分野や非通信分野でのビジネスを広げていかなければならないという問題意識がありました。そこで社内起業家を育成する「イントレプレナープログラム」が立ち上がりました。これは本業の20%のパワーを使って、新しいサービスや仕組みをつくろうという取り組みです。そのプログラムにチームで応募したことが、スリープテック事業を手掛けるきっかけになりました。

――当初から睡眠にフォーカスを当てたアイデアを考えていたのですか。

尾形氏:初めから睡眠の課題を解決するという意識があったわけではありません。まずは、自分たちチームの課題は何だろうかという点から、ゼロイチでスタートしました。この段階で“NTT東日本の強みは何か”と考えてしまうと、アイデアが偏ってしまうと思い、フラットな状況で考えるようにしたのです。

ちょうどこの頃、世間ではプレミアムフライデーが謳われていましたが、我々のチームはどうだったかというと、業務量が多く、さばき切れていない状態が続いていました。限られた時間の中でどう業務を進めるか、どうパフォーマンスを高めるかという課題に対し、出てきたキーワードが仮眠だったのです。仮眠は脳を活性化させるという学術的なデータもあり、仮眠を“テック”して、パフォーマンスを上げる仕組みをつくれないかとアイデアを絞り込みました。

知見も実績もないところから、toB向けサービスをリリース

――スリープテック事業に取り組むにあたり、まず行ったことは何ですか。

尾形氏:事業を開始した当初、「なぜNTT東日本が睡眠なのか」と多くの人に問われました。そこでまずは、事例や実績をつくることが必要だと考えたのですが、当社には睡眠に関する知見が豊富にあるわけではありません。そこから知見を持つパートナー探しを始め、睡眠医学の知見を有するブレインスリープと組むことに決めました。目に見える実績をつくるため、両社でサービス開発したのが問診型の睡眠スコアリングサービス「睡眠偏差値 for Biz」です。これはtoB向けサービスとしてリリースしました。

――実績ができたことで、事業が前進したのですね。

尾形氏:はい、ここからいろいろな事業展開を考えていく中で、いくつかの企業から「睡眠事業に取り組みたい」という声が聞こえてきました。例えば、消臭剤などを扱うエステーさまからは香りが睡眠にどう効果があるのかのエビデンスがほしいというお話をいただきましたし、第一生命保険さまからはホールディングスの柱であるウェルビーイング事業の中で睡眠を切り口とした新しい事業をつくりたいというお話がありました。このような流れを受け、我々は睡眠市場に参入したい企業向けに検証プロトコルの作成やデータ分析のサポートを行う「睡眠市場参入コンサルティング」にシフトしていったのです。現在スリープテック事業は前述の睡眠市場参入コンサルティング、睡眠偏差値 for Bizに代表される「従業員向けの睡眠改善プログラム」、睡眠データの提供や開発支援を行う「スリープテックプラットフォーム」の3本柱で進めています。

――事業を進める中でどんな気付きがあったのでしょうか。

尾形氏:例えば、昨日の睡眠偏差値が60点だったとします。明日その点数を80点にするためには、いつもより2時間早く寝れば良いという改善策が分かっていたとしても、多くの人はすぐに実践できないでしょう。単に睡眠の状態が悪いから改善するというやり方では問題解決にはつながりません。そこで、日常の中で自然と睡眠を意識してもらうような仕掛け、工夫が必要なのではないかと感じるようになりました。クリエイティブ界における「バーニング・マン」のように睡眠トリガーのイベントなりフェスなりがあっても良いのではないか、産業自体を盛り上げる仕組みがつくりたいと考えたのです。