日本オラクルは14日、「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催した。日本オラクルが対面形式の大規模イベントを開催するのは約3年ぶりだ。

「ビジネスレジリエンスの実現:不確実な時代に成功するために」と題したセッションでは、オラクルのIaaS/PaaS(OCI:Oracle Cloud Infrastructure)を採用したぴあの事例が紹介された。システムソリューションリージョン リージョン長 兼 CISO室室長の山田武史氏が登壇し、OCIを採用した背景を語った。

コロナ禍による壊滅的危機をくぐり抜けてきたぴあ。同社は、提供するチケッティングシステムをクラウド移行するにあたり、性能、可用性、セキュリティなどを重視したという。OCIを導入したその経緯、導入効果、今後の計画はどのようなものだろうか。コロナ禍以前の成長率に戻すため、同社が挑む“DXの全貌"をお届けする。

コロナ禍を経て“ビジネス・レジリエンスの重要性"を再認識

ぴあは1750万人を超える会員に年間7500万枚のチケットを提供している。同社に対して「チケットのぴあ」というイメージを持っている読者も少なくないだろう。

だが、同社はチケッティング事業以外にも、「ぴあアリーナMM」の会場を運営する「ホール・劇場事業」、イベントの主催からチケットの販売を行う「コンテンツ事業」、出版物やデジタルメディアを展開する「メディア&プロモーション事業」、興行主やホールなどへ業務支援を行う「ソリューション事業」と、計5つの主要事業を展開している。

しかし、ライブ・エンタテイメント市場は2020年、新型コロナウイルス感染症の到来により、壊滅的危機に陥った。同社の調査によると2020年の市場規模は1106億円と前年比で82%減少した。ぴあグループも2020年度は66億6400億円の赤字を計上している。一方で、2021年から状況は回復傾向にあり、2023年にはコロナ前の規模を超えると試算されている。

  • ライブ・エンタテインメント市場規模・将来推計 出典:ぴあ総研

    ライブ・エンタテインメント市場規模・将来推計 出典:ぴあ総研

こうしたパンデミックの経験から、同社はIT投資戦略の重要項目に「ビジネス・レジリエンスの強化」を追加した。

「コロナ禍以前から、IT依存のサービス増加に伴うチケット流通基盤の巨大化や、システムの複雑化による運用コストの増大といったIT課題を解決するために、チケッティングシステムのリプレースは計画していた。しかし、予想していなかったパンデミックの経験を受け、『さらなるビジネスレジリエンスの強化』をIT戦略に追加した」と、山田氏は説明した。

  • ぴあ システムソリューションリージョン リージョン長 兼 CISO室室長の山田武史氏

    ぴあ システムソリューションリージョン リージョン長 兼 CISO室室長の山田武史氏

その上でIT基盤に求めるものとして、以下の6つを挙げた。

1. システムコストが最適化できる
2. 変化に対応できる対応力、柔軟性がある
3. 繁閑期の性能が担保されている/コスト・コントロールがしやすい
4. 365日24時間対応が可能
5. 可用性がある
6. 移行リスクを最小化できている

「ぴあでチケットを買ったことがある人は分かると思うが、一般的なチケットの販売開始時刻は土日の10時に決まっていて、そこにアクセスのピークがやってくる。5~10分ほどのピーク時間に最大限のリソースを割く必要があり、リソースのコントロール性能が非常に求められる」と、山田氏は同業界ならではのピーク性能の重要性を説明した。

オンプレミスでの性能を維持できるのか

では、ぴあはなぜオラクルのOCIを選定したのだろうか。

山田氏は、「実は2018年にオンプレミスのデータベース基盤のクラウド化を検討していた。フロントのサーバはクラウドに移行できたが、データベース基盤については性能要件を満たせずオンプレミスで継続していた。その後、日本に上陸したOCIが要件を満たせることが分かった」と、導入の背景を語った。

同社のチケッティングシステムは、Web/フロントAP、バックエンドAP、データベースの3階層構成となっている。フロントAPは適材適所でパブリッククラウドを利用したマルチクラウド構成になっている。そしてデータベースの部分がOCIに置き換わった形だ。そして同社は求められる要件の中で、「性能」と「セキュリティ」は特に重視したという。

  • チケッティングシステム構成概略

    チケッティングシステム構成概略

「チケッティングシステムは意外と複雑です。例えば、連番でチケットをとる際は、会場ごとに異なる座席に対応してどこに連番があいてるのかをシステム上で探さないといけない。これが結構難しい。またチケットは換金性の高い商品なので、システムが攻撃を受けやすくセキュリティ性能も求められる。OCIはこれらの要件をクリアした」(山田氏)

システムの移行に関しては、OCI上で利用可能なデータ・レプリケーション・サービス「GoldenGate」を利用。オラクル・コンサルティングサービスの支援も受けながら、移行を進めた。「移行中のトラブルは少なくなかった。しかし、コンサルティングサービスの支援が大きな力になり、スケジュール通りに進めることができた」(山田氏)

そして、OCIの導入の結果、既存システムと同等以上の性能を実現できたという。性能向上に伴いコストの効率化にもつながったとしている。

山田氏は講演の最後、「ミッションクリティカルシステムをクラウドで動かせる時代がきた。ビジネスレジリエンスを実現するクラウドを活用することで事業の成長にもつながる。要件を満たしつつ信頼できるクラウドの選定が重要だろう」と、同様の取り組みを検討している企業へアドバイスを送っていた。