北海道大学(北大)は4月12日、高難度医療技術であるカテーテル治療の医学的手技シミュレーション用の生体血管に類似した血管模型を開発することを目的に、3Dプリンタで作製した透明・柔軟な樹脂板と豚の生体動脈の機械的性質を比較し、生体血管に近い血管模型を3Dプリンタから直接作製することに成功したと発表した。

同成果は、北大病院 放射線診断科の森田亮助教、北大大学院 先端生命科学研究院の野々山貴行准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、医学雑誌「Journal of Vascular and Interventional Radiology」に掲載された。

3Dプリンタの医療への応用が進んでいる。しかしこれまでのところ、滑りや弾性などの機械的特性も含めて、生体血管に類似した血管模型を3Dプリンタで直接作製したという報告はされていないという。そこで研究チームは今回、その実現を目指して、3Dプリントした透明・柔軟な光硬化樹脂(レジン)の機械的特性(弾性率・粘着性・透明性・動摩擦係数)を豚動脈血管と比較検討したとする。

樹脂板は3Dプリンタを用いて樹脂から作製され、豚の動脈板は動脈を切除して作製された。樹脂板の各硬化時間は0、1、3、5、10分とされた。こうして作製された樹脂板と動脈プレートに対して、引張圧縮試験機を用いた引張試験を行い、弾性率を計測。さらに、カテーテル先端素材であるポリエチレン板に対しての樹脂板および血管内腔表面の接着強度が測定された。

  • レジン・豚動脈に対する引張試験

    レジン・豚動脈に対する引張試験(出所:北大プレスリリースPDF)

また、樹脂板の硬化時間ごとに樹脂の透明度を紫外可視分光光度計を用いて測定したとする。そして、シリコンコーティングの効果を確認するため、シリコーンスプレーを1~5秒間塗布した樹脂板表面の動摩擦係数と動脈内腔面の動摩擦係数を測定・比較したとのことだ。

その結果、弾性率は樹脂の硬化時間に関わらず、樹脂板では動脈と比較して有意に高く、樹脂の硬さが示されたという。また、樹脂の可視光線透過率および接着強度は、樹脂の硬化時間の増加とともに減少したとする。つまり、樹脂の硬化時間を短く設定することで、透明性を保ったまま粘着性を低下させることができるとした。併せて、シリコンコーティングが施された樹脂表面の動摩擦係数は、シリコーン層の膜厚が1.6μm~2μmの場合に動脈と同程度だったため、この数値を目安にしてコーティングを行うのがよいということも確認されたとし、シリコンコーティングは樹脂に生体動脈と同等の滑りを付与する重要なプロセスとしている。

研究チームによると、今回報告された素材・作製方法を用いれば、形状のみならず、滑りや弾性などの機械的特性も含めて生体血管に近い血管模型を、3Dプリンタから直接作製できるという。この血管模型の作製法は、高難度医療技術であるカテーテル治療という医学的手技のシミュレーションへの貢献が期待できるとしている。

  • (左・中央)透明柔軟な光硬化樹脂を用いて3Dプリンタから作製した生体血管に近い血管模型。(右)この模型を用いたカテーテル治療の医学的手技シミュレーションの様子

    (左・中央)透明柔軟な光硬化樹脂を用いて3Dプリンタから作製した生体血管に近い血管模型。(右)この模型を用いたカテーテル治療の医学的手技シミュレーションの様子(出所:北大プレスリリースPDF)