教育を中心に、生活や介護など人生の各ステージを支援する事業を展開するベネッセグループでは、2020年からハイブリッドワークを導入している。約3年が経過し、新たな懸念も生じてきた現在、このままの働き方で良いのかを問い直している状況だという。
3月14日~17日に開催された「TECH+EXPO 2023 Spring for ハイブリッドワーク 『働く』を再構築する」に、ベネッセホールディングス 執行役員 人財本部副本部長の鬼沢裕子氏が登壇。「個人にとっても、組織にとってもWIN-WINな働き方とは?」と題し、グループ会社のベネッセコーポレーションが行ってきた取り組みを紹介し、新しい働き方の下で個人、組織の両者がWIN-WINの関係になるために必要な考え方について解説した。
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新型コロナ対策とパーパス経営、2つの柱が支えるハイブリッドワーク
鬼沢氏はまず、出社勤務と在宅勤務それぞれにメリットがあり、同社は「この両方の“良いとこどり”ができるハイブリッドワークを今後も継続していく方針である」ことを示した。そして同社のハイブリッドワークについて、新型コロナ対策とパーパス経営の両方によって成立しているものだとした。2018年頃から、顧客にとって同社がどのような存在なのか、理想とされる存在になるためにどのような働き方をすべきなのか、社内で議論していたところ、新型コロナウイルス感染症が流行。コロナ対策本部会議を立ち上げ、その対策を実施するとともに、働き方についてもワークスタイル変革プロジェクトを設置した。2020年以降、この両者によってハイブリッドワークのかたちをつくり上げてきたという。
コロナ対策本部会議では、検討から決定をスピーディに行い、結果を具体的な社員の働き方に落とし込んでいくことを重視した。そのために、部門長クラスを集めた会議では社長自らがリーダーとなって決断のスピードアップを図り、人事、総務、ITの3部門が団結して全社の基盤を整備。会議で作成したガイドラインはイントラネットのトップ画面に置いて周知した。また、リモートでの働き方を可視化するために勤怠共有ツールもスピード開発し、どこで誰が何をしているのかをチームで共有できるようにした。出社率を抑える必要のあった緊急事態宣言下では、これに基づき、出社調整を行ったそうだ。
パーパスを念頭に置いたオフィスとワークスタイルの変革
一方、ワークスタイル変革プロジェクトでは、1か月半に5回のワークショップを実施。同社のワークスタイルにどんな特徴があるか、そこで何をしたいのかといった社員の声を集めた。ハイブリッドの働き方においてオフィスで実現したいことは何かを徹底的に議論したという。その結果目指すことになったのが、チームで一緒に議論しながら価値のあるものを生み出そうという価値共創型オフィスだ。2021年5月から稼働した新しいオフィスでは、コミュニケーションスペースを従来の2倍近くまで増やし、固定席だったオフィスは仕事に合わせて時間や場所を自由に選択できるABW(Activity-based working)に変更した。
ここで重視したのは、パーパスを念頭に置いた上で、どうしたらそれを働き方として具現化できるかということだ。その中で、多くの部署のさまざまな階層の社員を巻き込むことができたことや、働き方を議論する過程で同社の特徴や強みを再認識できたこと、そしてトップから社員に向けて意見を求めるメッセージが発信されたことなどによって、「成功につながった」と鬼沢氏は振り返った。
ハイブリッドワークで生産性を維持するには
こうして導入されたハイブリッドワークだが、生産性の面からは懸念もあったと鬼沢氏は言う。リモートワークで成果を出せるかどうかは人によって違う。同社で2009年に在宅勤務制を導入した際には、生産性の維持、向上が見込めない場合は在宅勤務を終了するという規定があったが、コロナ禍の今回は事情が異なり、誰もが在宅勤務をせざる得ない状況下に置かれた。たとえ在宅勤務に向いていなくても生産性を維持しなければならない。そこでハイブリッドワーク導入を決めた段階で全社員に対して、「これは全員で新しい働き方を模索するものだから、全員で一緒につくっていこう」という呼びかけを行ったという。
この内容は「今後にも通じるはず」だと同氏は力を込めた上で、ハイブリッドワークの成功には、各自が自ら考えて主体的に行動できる力を持つこと、仲間への配慮を忘れず本音で話して信頼関係を築くことが重要だと続けた。
「これらによって、ハイブリッドワークによるベネッセの新しい働き方をつくっていくことができると考えています」(鬼沢氏)
具体的な運用は各部門に任せ、実態を把握して柔軟に対応
中盤では、同社がハイブリッドワーク定着までの過程で特に重視してきたことも紹介された。その1つが、施策に対する具体的な運用方法を各部門に任せたことだ。全社共通方針として会社が打ち出すものはあるが、部門ごとにビジネスモデルもメンバーも異なるため、具体的なところは部門の裁量とした。
また、ハイブリッドワークに関する施策を打ち出した後、その結果として社員がどう感じているか、どう行動しているか、その実態も常に確認した。感染状況や社員の声の両方を見ながら施策も随時変更してきたが、その変更の意図をイントラネットで発信してきたという。特に人事制度は本来、それほど頻繁に変えるものではないが、状況に応じてすぐに修正、変更できるような「柔軟性を持つことは重要」だと鬼沢氏は説明した。