Amazonの登場以来、小売業は変化の波にさらされている。食品スーパーの西友は、一旦はWalmartの傘下に入ったが、現在は米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と楽天の子会社が主要な株主体制となり、日本を代表するOMO(Online Merges with Offline)リテーラーを目指し、積極的にデジタル化を進めている。

3月22日に開催された「流通ニュース×TECH+ セミナー リテールDX 店舗運営の最適化から生まれる顧客体験価値」に西友 代表取締役社長の大久保恒夫氏が登壇。一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授の楠木建氏との対談を通じて、自社の戦略を説明した。

  • (左から、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授の楠木建氏、西友 代表取締役社長の大久保恒夫氏)

同質化競争から脱却、ポジショニングを明確に

対談の前半では、西友のデジタル面での取り組みが紹介された。

大久保氏はまず時代の変化に触れた。「ネット化により、お客さま、生産者との関係が変わる中で、小売業も変わらなければならない」と述べ、「これまでのように店舗でものを売る販売業からマーケティング業に革新する必要がある」と自らの考えを説明。データを利用することで、マーケティングは販売促進のみならず、商品、価格、売り場、物流の適正化と効率化にも役立てることができるとした。時代認識としてはもう1つ、「ネットスーパーは確実に伸びる」とも語った。

そのような中、西友はどのような競争戦略を立てているのか。大久保氏は「ポーターの競争戦略」を参照しながら、「ライバルに勝つ同質化競争ではなく、利益を上げる、業績を持続的に良くする競争戦略が重要」だと強調し、西友の3つの基本戦略として「バリューチェーンでの戦略実行」「差別化による価値提案」「ローコストオペレーション」の3つを挙げた。

また、楠木氏が著書『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(発行:東洋経済新聞社)で示した「競争戦略には、人に話したくなるようなストーリーがあるべき」という論に同意しながら、楠木氏が定義するレベル0/1/2/3のステップを進めているという。大久保氏は現在の小売業界の状況を、レベル1(業界の競争構造)の競争が激化・成熟化する中で同質化し、価格競争が激しくなり”レッドオーシャン化”している状態だと位置付け、「ここから脱却し、競争優位の源泉としてポジショニングを明確にする、組織能力を上げる。それをファイブソースへの優位性にどう生かすか、トレードオフで差別化するのかといったことをバリューチェーン全体でローコストで実践していく。これが西友が現在目指している方向性」だと説明した。

価値創造のための「商品力」と「販売力」

具体的にはどのように取り組んでいるのか。

大久保氏は「価値創造により利益を拡大する」ことを掲げていると言い、そのための対策として「ディスカウント合戦からの脱却」「粗利率の改善」「データ収集と活用」などを紹介した。

価値創造については、「商品力」と「販売力」の2つを柱に、それを支える土台として「人財」「IT」「店舗」の3要素で進めているという。「商品力」と「販売力」を強化することで利益を生み出し、その利益を「人財」「IT」「店舗」に投資。これらの土台が更に強化されることで、より「商品力」と「販売力」が強化されるというサイクルを回すという考え方だ。このサイクルによって、「西友が目指している価値創造=お客さまに喜ばれる食品スーパーになる」ことを実現していくと言う。

例えば商品力では「製造小売業」を進化させ、産地・原料(川上)から販売(川下)までのバリューチェーンの構築により、鮮度と品質を上げ、ロスを削減する取り組みなどを行っている。

販売力では、絞り込み、売り込みが大切になる。「さまざまな商品、情報がありすぎては選びにくい。多くの種類を並べておけば売れるという時代は終わった」(大久保氏)のだ。そこで、自分たちがプロとして薦める商品を目立つ位置に置く、在庫を積み増しする、POPを付けて顧客に分かりやすく価値訴求するといったことを実施している。

「これらをいかに人件費をかけずに行うかが大切です」(大久保氏)

人件費については、セルフレジの導入など、店舗オペレーション改革なども進めている。また、大久保氏自らが塾長を務める「商人塾」を2022年6月にスタートしたほか、動画を多用した「eトレーニング」の取り組みも2022年7月より開始しているそうだ。