コロナ禍を契機とし、リモートワークをはじめとする新しい働き方が広く定着した。しかし昨今では“コロナ後”を見据えてこれを拡大すべきか、以前に戻すべきかが悩みの種となっている企業も多い。
3月16日に開催された「TECH+EXPO 2023 Spring forハイブリッドワーク 『働く』を再構築する」に、ヤフー PD統括本部 ビジネスパートナーPD本部 人事企画部 組織開発 リーダーの中野康裕氏が登壇。「リモートワーク広げる? やめる? と言う前に」と題し、オフィスに捉われない働き方、今後の新しい働き方についてどのように考えれば良いのか、同社での取り組みを紹介しながら解説した。
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選択肢を増やし、働き方そのもののアップデートを
中野氏はまず、ヤフーでの現在の働き方がコロナ禍以前と比べ、どう変化したかを説明した。従来、毎月5回までとしていたリモートワークの回数制限が撤廃され、フレックス勤務のコアタイム制は廃止、通勤手段は飛行機や特急、高速バスの利用も可能とし、居住地(国内)の制限がなくなり、交通費の上限も緩和された。その結果、現在はリモートワークをメインの働き方とする従業員が約9割、300名以上が飛行機や新幹線の通勤範囲に居住、会社が契約するサテライトオフィスを利用する社員も多いという。
このような実情を明かしながら、同氏はそもそもリモートワークをすること自体が「オフィスに捉われないことなのか」と疑問を投げかける。ヤフーの基本的な考え方は、あくまでパフォーマンスを最大化するために働き方の選択肢を増やすというものであり、リモートワークに限らずさまざまな働き方ができるように取り組んでいるという。
「インターネットを駆使して働き方を改革すれば、より便利なサービスをユーザーに提供できる。さらに新しい働き方の可能性を解き放ち、日本の働き方そのものをアップデートできる。それが最終的に目指しているビジョンです」(中野氏)
働く場所の効能を再定義する
では、オフィスに捉われない働き方とは何か。中野氏は「働く場所が持つ意味や効能を再定義すること」だと言う。そのためには、生産や機能、心理といったポイントから働く場所の効能を考えていくことが重要になる。例えば、工場を持つ企業の場合、工場という働く場所が持つ効能は生産であり、その拠点が物理的な業務と紐づいているため、リモートワークはしにくいということになる。また、機能面では議論や連携、管理などについて、オンラインとオフラインのどちらがその企業に適しているのかを考えるべきであり、心理面では帰属意識やシンボルとしてオフィスの存在意義などを総合的に考える必要がある。
これらの生産、機能、心理などの各領域について、会社がしっかりと意思を持つことが重要だと中野氏は強調する。仮に、工場があるから出社を必須とするなど、生産の領域だけを考えてしまうと、工場に行く必要のない管理部門などから異議が上がり、議論になってしまう可能性もある。
「会社はあらゆる領域について意思を持つ必要があります。そして、会社の方針や勝ち筋のための推進力にするために、場所をどう使うかをしっかりと考えるべきなのです」(中野氏)
会社は明確なメッセージを伝えるべし
働き方改革を推進するにあたってはハード面や制度も重要だが、それ以外に見落としがちなことがある。その例として中野氏は、メッセージング、コミュニケーション課題の可視化、求心力と遠心力、マネージャーと共に創るという4つを挙げた。
メッセージングとは、働き方の改革について会社が社員に対してどのように伝えているか、そして社員にどのように伝わっているかということだ。同社の場合は「ヤフーの働き方は日本の働き方UPDATEであり挑戦である!」というメッセージを全社に伝え、新しい働き方には確立した方法論がないため、全員が主体的に挑戦し改善を積み重ねるべしという話を繰り返し行っているそうだ。明確なメッセージがないままスタートすると、リモートワークを使わない人がいたり、福利厚生の感覚で受け止める人がいたりするなど、受け止め方もバラバラになってしまう。
「会社が何をするためにこの働き方を推進するのかを、しっかりと伝えることが必要です」(中野氏)