マイナビは3月14日~17日、オンライン・イベント「TECH+EXPO 2023 Spring for ハイブリッドワーク 『働く』を再構築する」を開催した。本稿では、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻で教授を務める楠木建氏が登壇した1日目の基調講演「『本性主義』で考えるポストコロナ社会」の内容をお届けする。
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競争戦略が自身の専門分野だという楠木氏は、自著『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(発行:日経BP)を執筆した経験を基に、過去を振り返ることの有用性を語る。
楠木氏は同著の執筆に際し、「日本の経営層に広く読まれている雑誌だという日経ビジネスを、1969年の創刊号までさかのぼって全て読んでみた」のだという。すると、「同時代性の罠」が見えてきた。同時代性の罠とは、「旬の言説ほど、その同時代のステレオタイプ的なものの見方が強く入り込む」こと。「これがバイアスとなって多くの人が変なことをしてきた」と同氏は語る。
楠木氏はウォーレン・バフェット氏の「潮が引いた後で、誰が裸で泳いでいたかが分かる」という言葉を引用し、「たまには過去にさかのぼってみては」と投げかける。
一貫して変わらないものは何か?
過去にさかのぼることで、時間の経過により本質が目に入りやすくなると楠木氏は説明する。
「潮が引いた後で、何が本物で何が偽物だったかが分かるのです」(楠木氏)
同氏が語る本質とは、「物事の基底にある性質」「そのものの本来の姿」であり、「そう簡単には変わらないものこそが、頼りになる本質だ」と言う。
その見極めには、歴史を振り返ることが有用だと楠木氏は強調する。
「(振り返ることで)何が一貫して変わらないのか、本質が見えてきます。僕はこれが歴史の価値だと思っています」(楠木氏)
同氏曰く、現在のコロナ禍は戦後23回目の“戦後最大の危機”なのだという。これに、ロシアによるウクライナ侵略を加えると24回目になる。
なぜ危機的状況が何度も繰り返し起きるのか。楠木氏は、「限られた時空間の中で、それぞれ利害を抱えて生きている人間社会において、安定はあり得ない」とし、「危機こそが常態なのだ」と語る。
振り返ると、過去何度も新しいテクノロジーにより「仕事が無くなる」と叫ばれたことがあった。例えば、オートメーション、コンピューター、ロボット、ERP、近年ではAIやDXの登場時はいずれも機械に人間の仕事が奪われるという言説が流れた。しかし、実際には仕事は無くならず、かえって増加したと楠木氏は指摘する。
また楠木氏は、商社3.0、インダストリー4.0、Society 5.0といった表現にも疑問を感じており、耳にする度「以前とは何が違うのか」と尋ねているが、納得できる答えを得たことはないという。
同氏が調べてみると、Society 4.0ですでに世の中は情報社会に突入していた。 では5.0はどんな時代なのか。さらに調べると「革命的に生産性を上げる新しい社会」だと言われているという。楠木氏はこの展開を「これはただの掛け声に過ぎない」と見る。
「経営者が一番やってはいけないことは、この手の掛け声を掛けることです」(楠木氏)