リコーは3月に入り、2023年度から2025年度における21次中期経営戦略を策定した。これまで複合機を中心にオフィスの効率化を支援してきた同社だが、今後は特にデジタルサービスに注力しオフィス空間や現場の「"はたらく"に歓びを」に貢献する方針だ。

リコーが強みとするOA(Office Automation)機器においては、独自のエッジデバイスと国内外の広範囲な販売網が特徴的だ。今後はさらにクラウドサービスなどにも注力することで、働く人の創造力を支えワークプレイスそのものを変えるサービスを提供できる企業への変化を目指す。

同社はこのほど、21次中期経営戦略の中でも特にESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンスの頭文字を取ったもの)についての戦略を語るとして、記者向けに説明会を開いた。特に欧州を中心にサプライチェーン全体でサステナビリティへの取り組みが重要視される中、同社はどのような戦略で次なる成長を目指すのだろうか。

リコーのESG戦略の現在地は?

まずは、昨年度までに20次中期経営戦略でリコーが目指してきたことを振り返ってみよう。これまでの戦略の中でも、同社はサステナビリティ・ESGに関わる取り組みを重点施策として対応してきた。ESGに関する各指標といった外部評価はあくまで「健康診断」と位置付けて、経営陣と現場で取り組みと可視化を進めたという。

特徴的な点として、ESGを考慮した判断を促すために、役員層も含めて達成度と報酬を連動させる制度などを開始している。また、ESG活動を社員の日々の働きがいにつなげるために、研修を通じた対話などを繰り返してきたそうだ。

  • 20次中期経営戦略の振り返り

    20次中期経営戦略の振り返り

ESGのE(環境)の領域においては、SBT1.5度をはじめグローバル基準に則った目標を設定し、着実な温室効果ガス排出量の削減と、再生エネルギー率の向上、再生プラスチックの活用を進めている。2月に発表したA3フルカラー複合機ではその成果が見られ、機体の再生プラスチック(回収材)使用率は50%以上だ。

  • 環境分野の成果

    環境分野の成果

S(社会)の領域でもグローバルの標準に則った活動に注力した。サプライチェーン全体でのESG活動を進めるために購買部と連携した活動を進めたほか、RBA(Responsible Business Alliance)基準で全生産拠点のESGリスクの改善を試みた。主要な生産拠点でRBA認証を取得したという。

人材データの開示にも積極的で、離職率や女性管理職比率、人材育成のための時間やコスト、労働安全衛生データを公開した。男女の報酬比率など、今後フォーカスされると考えられる項目についても、開示の準備を進めているとのことだ。

  • 社会分野の成果

    社会分野の成果

G(ガバナンス)領域においては、特に意思決定のシステムや報酬制度を整備した。ESGへの取り組みの実効性を高めるために、非財務的なESG目標やDJSI(The Dow Jones Sustainability Indices)の結果を役員報酬と連動する仕組みも開始している。また、取締役のスキルマトリックスやCEO報酬を開示するなど、コーポレートガバナンスの取り組みも強めた。

  • ガバナンス分野の成果

    ガバナンス分野の成果

21中期経営戦略でリコーが目指す姿

欧州を中心とした人権DD(Due Diligence)関連法案の制定などを受け、特に海外顧客からのESGに対する要求が高まっているようだ。近年はウイグル問題などが顕在化したこともあり、サプライチェーン全体の人権DDに対する要求が強まっているという。

加えて、マシンやトナーの梱包材についても、再生プラスチックの利用率やFSC(森林管理協議会)認証紙の使用に対する要求が大きくなっているとのことだ。また、サステナビリティに関する評価であるEcoVadisのスコアを重視する動きも見られる。

  • 国外の顧客からの要望の変化

    国外の顧客からの要望の変化

国内に着目すると、数年前までサステナビリティに関する問い合わせといえば、取り組み全体についての話題や目標設定のベンチマークに関する依頼が多かったという。最近では、マテリアリティ(重点施策)の選定を終え、経営システムへの統合や社内への浸透を図る企業が増えてきたそうだ。さらに直近の動きに着目すると、ESG情報開示やスコープ3の算出への関心が高まっており、サーキュラーエコノミーへの関心も増加傾向にあるとのこと。

  • 国内の顧客からの要望の変化

    国内の顧客からの要望の変化

このように国内外で顧客からの要望が変化しつつある中、同社は21次中期経営戦略において、持続的な企業価値向上を通じてESGグローバルトップ企業へと躍り出ることを狙う。国内のみならずグローバル全体でESGへの取り組みを強化するようだ。

20次中期経営戦略を振り返って分かるように、同社はこれまで「ESGと経営戦略の同軸化」に注力してきた。今後は「ESGと事業成長の同軸化」を推し進めるという。ESGと事業の成長を天秤にかけてどちらかを取るのではなく、ESGへの取り組みに伴って事業が成長する体制を図る。ESGに資する技術開発や人材の育成を将来財務と捉えて投資するという。

  • 21次中期経営戦略におけるリコーの方針

    21次中期経営戦略におけるリコーの方針

21次中期経営戦略で同社は、事業を通じた社会課題解決に向けた「"はたらく"の変革」「地域・社会の発展」「脱炭素社会の実現」「循環型社会の実現」の4点と、経営基盤の強化に向けた「責任あるビジネスプロセスの構築」「オープンイノベーションの強化」「多様な人材の活躍」の3点をマテリアリティとして定めた。さらに、これら7点のマテリアリティに対して達成すべき指標を16項目設定している。

  • リコーが定めた7つのマテリアリティ

    リコーが定めた7つのマテリアリティ

また、同社では賞与算定式だけでなく、役員株式報酬の算定式にもESGの達成率を組み込んでいる。その割合は2割ほどとなるようで、企業としての取り組みの本気さが見える。なお、対象者は海外居住者を含む取締役および執行役員らである。

リコーの執行役員でESG領域を担当する鈴木美佳子氏によると「具体的な時間は現在算出中ではあるが、取締役会でもかなり多くの時間をESGの議論に費やすようになっている。進捗報告だけでなく外部評価や自社の強み・弱みなどを議論することで、取締役会の中でもESGに関する理解が非常に進んできたと感じる」とのことだ。

  • 左:リコー コーポレート執行役員 ESG・リスクマネジメント担当 鈴木美佳子氏、右:ESG戦略部 兼 プロフェッショナルサービス部 ESGセンター 所長 阿部哲嗣氏

    左:リコー コーポレート執行役員 ESG・リスクマネジメント担当 鈴木美佳子氏、右:ESG戦略部 兼 プロフェッショナルサービス部 ESGセンター 所長 阿部哲嗣氏