改正道路交通法が4月1日に施行され、これにより、自動運転の「レベル4」が解禁される見込みだ。レベル4では特定の条件下で運転者が不在のまま運行できるため、いよいよ文字通りの"自動運転"らしさを感じられるフェーズへと突入する。

改正法の施行の前に、レベル4の解禁内容とその課題、さらに将来性について明らかにしてみたい。取材に応じてくれたのは、法律事務所ZeLoの弁護士である官澤康平氏と市川裕圭氏。

  • 左:市川裕圭氏、右:官澤康平氏

    左:市川裕圭氏、右:官澤康平氏

「レベル4解禁」で何ができるようになるのか

--法改正の背景について教えてください

官澤氏:道路交通法とは、その名の通り道路を交通するために運転者や歩行者が守るべきルールを定める重要な法律です。これまで、車の運転については運転者がいることを前提としたルールを規定していました。

しかし、技術の進歩によって自動運転の実用化が見込まれ、運転者がいない場合のルールが必要になってきたので、運転者が不在の場合を想定したレベル4の自動運転を解禁するために法改正がなされました。

自動運転は、その段階によってレベルが分けられています。レベル1の自動運転には自動ブレーキや車線からはみ出すことを防止するシステムが含まれ、レベル2には高速道路での追い越しや合流を支援するシステムが含まれています。

  • 官澤康平氏

直近では、2020年4月のレベル3解禁が大きな話題となりました。レベル3では運転者が存在していながらも、特定の条件では目を離してもよく、運転者の代わりにシステムが運転します。また、レベル3を含めた自動運転には、道路運送車両法という別の法律も関わっています。レベル3解禁の際には、道路運送車両法と道路交通法に自動運転システムについて「自動運行装置」という用語が定められました。

これまでは運転者がいる前提での自動運転の解禁でしたが、今回の法改正でいよいよ運転者がいない場合の自動運転が解禁されます。

--法改正によって何が変わるのでしょうか

官澤氏:繰り返しになりますが、運転者が存在することなく、システムによる自動運転ができるようになります。具体的には、過疎地域など特定の条件の下において、有事の際に対応できるよう遠隔監視などの措置を講じた場合に、システムで車を走らせることができます。

国は自動運転の普及に関するロードマップを定めています。このロードマップではレベル4を解禁したからといってすぐにあらゆる場所で実用化するのではなく、2025年くらいをめどに無人自動運転サービスを40カ所以上で実現するために、エリアや車両拡大を進めていく方針が示されています。実際に車をレベル4の条件下で走らせても良い場所は、今後の技術の発展に伴って徐々に増えていくはずです。

なお、レベル4の車は自由にどこを走らせても良いのではなく、事前に走行区域や走行条件を絞って都道府県公安委員会に許可を申請する必要があります。また、許可を受ける際には地域の理解を得る必要もあり、公安委員会が許可を出すに当たっては慎重に判断されると思います。

レベル4解禁によって、近い将来には、例えば長距離を移動する貨物トラックが高速道路上で後続車無人の隊列走行できるようになると考えられます。無人の後続トラックを数台でも走らせることができれば、ドライバー不足の解消が期待できます。その他にも、過疎地域において高齢者のために巡回する無人タクシーサービスなどが普及し、交通事故の減少にもつながるでしょう。

--現状(レベル3)の自動運転はどこまで進みましたか

市川氏:2020年4月にレベル3の自動運転が解禁されましたが、実は現在までに国土交通省がプレスリリースで公表した日本でのレベル3の認可事例はまだ2つしかありません。ホンダの「LEGEND(レジェンド)」と、福井県の永平寺町を運行する「ZEN drive(ゼンドライブ)」です。法令としてはレベル3を解禁しているものの、認可の基準が厳しいので事例は少ないのが現状です。

ただし、実証実験ではレベル3や4に相当する運行が進められています。先ほど述べた永平寺町でも、レベル4のサービスの実現に向けた事業モデルの整理や、遠隔監視者のタスク検証などが実施されています。国としても永平寺町のレベル3の車両をレベル4にすることを推進しており、レベル4での無人自動運転サービスの実用化が近いものと考えられます。

※4月4日追記
3月30日に、福井県永平寺町で使用する車両について、国内で初めて運転者を必要としない自動運行装置(レベル4)としての認可を受けたことを経済産業省が発表した。
TECH+:産総研、国内初のレベル4自動運転車両の認可を受け福井県で実証走行開始
経済産業省:国内初!自動運転車に対するレベル4の認可を取得しました

なお、レベル3の自動運転車は、自動運転中の速度やレーダーが性能を発揮できる天候など、ODD(Operational Design Domain:走行環境条件)をあらかじめ定め、その条件の下で走っており、ODDから逸脱した場合にはシステムから運転者が操作を引き継ぐ仕組みになっています。レベル4の場合は運転者が存在しないので、安全な方法で停止することになっています。

  • 市川裕圭氏

まだ残される論点、今後の課題とは?

--これからどのような議論が必要でしょうか

官澤氏:レベル3の解禁により、一定の条件の下で、運転者が存在する状況でシステムが運転を行えるようになり、さらにレベル4の解禁によって、運転者が存在しない運転が可能になりました。

これまでは運転者が車を運転することが前提になっていたので、基本的に事故発生時は運転者の過失が大きな問題となっていました。レベル3や4の自動運転では、システムが作動している間に発生した事故に運転者の過失があるのかなど、責任の所在が不明確になるため、関係者の責任関係を明確化する必要があるといえます。

また、トロッコ問題の例として知られるような、どちらの判断をしても被害が生じる場合におけるシステムの判断のあり方などについては検討が進められています。

トロッコ問題
制御不可能なトロッコ(トロリー)が線路を暴走しており、線路上には5人の作業員がいて放っておけば5人はひかれて死んでしまう。自分が分岐器を操作することでトロッコを別の軌道に進められるが、その先には1人の作業員がいて、ひかれて死んでしまう。「多数の命を救うために一人の命を犠牲にする判断は道徳的に正しいのか」を問う道徳ジレンマ課題。

レベル3の自動運転ですらまだ事例が少ないので、今はまだ調査・検討が不十分な状況です。さらに、交通事故には保険も関係するため、自動運転の保険については改めて検討する必要があり、これからレベル3、4の事例の増加と主に精緻化されるのではないでしょうか。

市川氏:これも責任問題の議論なのですが、レベル4の自動運転は運転者が不要である一方で、遠隔監視者など有事の際に対応する人は必要です。遠隔監視者は運転者ではないですが、事故発生時には、監視をしていたことを理由に事故の責任を負う可能性もあり、十分な検討が必要になります。

遠隔監視者に重い責任を負わせてしまうことになると、遠隔監視者の成り手がいなくなってしまうことも想定されます。

--遠隔監視者はどのような人が想定されていますか

官澤氏:遠隔監視者、つまり遠隔監視装置を使う人は法律上「特定自動運行主任者」と呼ばれます。特定自動運行主任者の要件として、両目の視力や両耳の聴力を喪失した者でないこと、遠隔監視装置その他の特定自動運行を行うために必要な設備を適切に使用できることなどが定められています。

実は、特定自動運行主任者の許可条件に免許証を持っているかどうかは規定されていません。しかし、監視する以上は基本的な運転の技術や車両の基礎知識は持っているべきであり、特定自動運行を行うために必要な設備を適切に使用できるという条件などの中で判断されていくことになるでしょう。

また、どのような自動運転車の遠隔監視装置を使うのかによって、特定自動運行主任者に求められる技術や能力も異なります。そのため、「どの程度の視力・聴力が必要か」「1人で何台まで監視できるか」などの具体的な条件も、個別の判断が必要になると思います。

そして、ODDの設定次第で遠隔監視装置や自動運転システムにどれだけの性能を求めるかは変わるはずです。今は国としても明確な基準が無い中で手探りの状態ですので、実証実験を通じたユースケースの検討とともに現実的な条件が少しずつ見えてくるでしょう。

  • 官澤康平氏、市川裕圭氏