「かつては決算を締めて報告する役割がメインだった財務・経理部門。不確実性が高まる時代においては、『経営支援』ができる組織へ変革していくことが必要になる」——こう語るのは、複数の日本企業で財務・経理部門の責任者を務めてきたマツキヨココカラ&カンパニー 執行役員 グループ管理統括 財務戦略室 室長の西田浩氏だ。2月16日に開催されたオンラインセミナー「TECH+セミナー 経理業務変革 Day 2023 Feb. 税制改正への対応と業務変革」で、経営支援を行える強い財務・経理部門への変革に取り組んだ事例を紹介した。

コロナ禍と経営統合を機に、財務・経理の業務を大きく変革

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合し2021年10月に誕生したマツキヨココカラ&カンパニーは、純粋持株会社としてグループ全体の経営企画・戦略策定推進機能を果たしている。財務戦略推進も同社にて行っているほか、財務・経理の実務はグループのコーポレート機能全般を担う子会社・MCCマネジメントが担う。マツモトキヨシおよびココカラファイン等の事業会社は店舗運営のみに特化しており、財務・経理部門はない。

経営統合に加えコロナ禍の影響もあり、ここ数年間はペーパーレス化およびリモートワークの推進に力を入れてきた。現在、請求書や立替精算などの書類は電子化されており、メンバーの大半はリモートワークを実施している状況だ。それでも問題なく財務・経理業務を行えているという。

財務・経理部門におけるデータ活用も進む。「始業時には前日の売上データ等が配信されるため、それを確認するところから業務を始めている。データは生き物であり、現場で起きていることを映す鏡」だと西田氏は話す。異常値を発見して分析するなど日々の売上データ等から何が起きているかを把握し、気になることがあれば営業部門にも確認するようにしているそうだ。

数値データから企業の課題を把握するためには、月次決算の迅速な開示も重要となる。西田氏は「一部に概算値を用いても、月次決算は迅速に開示することが必要」だとする。経営統合時は、両社で月次決算のスピードが異なっていたが、現在は請求書の到着が間に合わない項目等について必要最小限の概算値を用いるなどして、早期に社内に開示するようにしている。結果として、経営判断に役立つようになったという。なお、月次決算はスピード感を重視するが、四半期開示のタイミングで正確な数字を固めることでバランスを取っている。

決算資料の改善にも取り組んだ。有価証券報告書や決算短信は2期分で比較することが一般的だが、マツキヨココカラ&カンパニーでは、「自社に重要な財務指標は経年変化に着目する必要がある」との考えの下、5〜10年のトレンドを見るようにしている。また、変化を正しく分析するためには、自社の事業および戦略に精通していることもポイントとなる。

人材スキルシート、FASS検定でメンバーの強みと弱みを見える化

人材育成については、社内研修や勉強会などに加え、「人材スキルシート」の活用も進める。人材スキルシートの中では、どの業務をどういう人材が担当できるかが整理されている。業務項目は財務・経理部門の場合50ほどある。そのうえで、部員のスキルが一覧化されており、各担当者の状況についてコメントが記載されている。このようにスキルや経験を見える化することでメンバーの強みと弱みを把握し、ジョブローテーションを行いながら人材育成と手薄な業務の補完が行えるようになっているのだ。

  • 人材スキルシートのイメージ図

ジョブローテーションにおいては、日本CFO協会が運営するFASS検定(経理・財務スキル検定)も推奨している。西田氏は、「FASS検定は点数制。自分が過去担当したことある業務の内容に関しては点数が取れるが、やったことがない分野の点数は伸びない。自身の強みや弱みを明確に把握するには良い検定試験」だと紹介する。