千葉大学は2月21日、従来の「電気インピーダンス・トモグラフィ法」(EIT)を基盤とし、新規に開発したプリント基板上に設置した微小電極アレイセンサを実装した「PCB-EIT」法を提案し、イオンチャネルを介して生じる、不均一な細胞外イオン濃度のイメージングに成功したことを発表した。
同成果は、千葉大 国際高等研究基幹の川嶋大介特任助教、同・大学院 工学研究院の武居昌宏教授、同・大学院 理学研究院の村田武士教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国物理学会が刊行する科学機器および測定に関する全般を扱う学術誌「Measurement Science and Technology」に掲載された。
ヒトの体液にはナトリウムやカリウム、マグネシウムなどのイオンが含まれている。これらのイオンは細胞膜上に存在するイオンチャネルを通じて細胞の内外に出入りし、筋肉細胞や神経細胞の働きをはじめとした身体機能の維持や調節など、人体にとって重要な働きをしている。
イオン輸送は、細胞種やイオンチャネル・イオン濃度分布の不均一性などに起因して、イオンを輸送する速度(輸送係数)や輸送方向の違い(異方性)を有する。このような異方的なイオン輸送を測定し、創薬ターゲットとなるイオンチャネルに薬の成分がどのような作用を起こすかを知ることは、非常に重要だという。
現在、イオンチャネルの薬物作用を確認するため、一般的に用いられているのが「パッチクランプ法」だ。同手法は、電極を細胞膜に刺して測定する侵襲的な手法だ。その上、画像化(イメージング)ができないため、異方的なイオン輸送を捉えられないという課題もあった。
また蛍光イメージングも利用されているが、試薬を細胞内に投与する必要があり、こちらもまた侵襲的な手法である。こうした侵襲的な手法は細胞膜構造に損傷を与えてしまうため、非侵襲的かつ異方的なイオン輸送を測定可能な検出技術が求められていた。そこで研究チームは今回、新規開発したプリント基板上に設置した微小電極アレイセンサを実装することで、新たな手法を開発することにしたという。
従来の非侵襲イメージング手法として、EIT法がある。しかしこの手法では、電極を細胞周囲に配置する必要があるため、細胞や組織サイズでの測定には不向きだった。そこで、微小空間に多数の電極を配置することで、EITの細胞・組織への適用を可能としたPCB-EITが新たに開発された。
研究チームは開発に続いて、PCB-EITの検証実験を行った。まず、組織を模倣した細胞の集合体であるスフェロイドを作成し、その周囲の培地内のスクロース濃度を調整することで不均一なイオン分布を生成。培地には、スフェロイドに対して浸透圧条件が等張、低張、および高張の3種類のスクロース濃度を使用し、スフェロイドの両側面に異なる濃度の培地を配置させたという。実験の結果、PCB-EITでは、異方的なイオン輸送による不均一な細胞外イオン濃度分布を描写する画像を生成することに成功したという。
次に、そのイオン濃度分布画像をもとに、イオン輸送モデルを適用して輸送係数と異方性指数が推定された。各浸透圧条件において異なる輸送係数および異方性指数が示され、異方性が評価された。
PCB-EITで得られた結果の検証として、スフェロイド周辺に存在し、細胞イオン輸送に関与する中で最も豊富なイオンであるカリウムイオンを用いて、蛍光イメージングにより同様の実験が実施された。すると、不均一なイオン濃度分布の形成と異方的なイオン輸送が認められ、EITの妥当性が証明されたとした。
研究チームは今回の手法について、イオンチャネルに関連する薬物反応を細胞単位で測定できるため、創薬プロセスにおける非臨床試験の効率向上と試験期間の短縮につながることが期待されるとしている。