コロナ禍で働き方や生活様式は大きく変化した。従来対面で行われていた多くの活動がオンライン上でも行われるようになり、日常化しつつある。その1つが、 “オンライン診療”だ。ニュースなどで耳にする機会も増えたオンライン診療だが、「病院に足を運ばなくて済むので便利」という反面、「オンラインで正しく診断してもらえるのか」といった不安もあるだろう。
今回は、ヘルスケアアプリ「HELPO」を提供するソフトバンクの子会社・ヘルスケアテクノロジーズの代表取締役社長 兼 CEOである大石怜史氏に、オンライン診療の現状やメリット、デメリット、健康管理の在り方や今後の展望について伺った。
そもそもオンライン診療って何?
報道などでもよく取り上げられ、言葉としては定着しつつあるオンライン診療だが、その定義はどのようなものなのか。大石氏は「対面で診療するものではなく、通信を伴ったかたちで診療を行う行為」だと説明する。以前から行われていた電話での診療も、オンライン診療の一部に該当するが、今ほどの広がりを見せてはいなかった。現在、オンライン診療が普及しつつあるのは、通信環境やビデオ通話などの精度向上が貢献している。技術革新により、以前の音声通話やビデオ通話では伝わりづらかった顔色や表情、咳の音などもしっかりと伝わるようになったことで、「オンライン上で判断できることが増え、疾患によっては対面診療と同等レベルの診療が可能になった」(大石氏)という。
では実際にオンライン診療を利用したことのある人はどれくらいいるのだろうか。ヘルスケアテクノロジーズが実施した「医療へのアクセスに関する意識調査※」では、「オンライン診療を知っている」と答えた人が88.9%だったのに対し、「オンライン診療を利用したことがない」と答えた人は92.0%となっており、認知度は高いものの、実際に診療を受けたことがある人は少ないことが明らかになっている。大石氏はこの点について、「(オンラインでの診療で)実際の症状を理解してもらえるのか、症状が緩和するのかという不安感があるのではないか」と推測する。
※全国の20代~70代の男女600名を対象に、2022年11月実施。
リードタイム削減のほか、医療的知見を手軽に得られるメリットも
オンライン診療のメリットとして、多くの人が思い浮かべるのが、病院へ行く時間、待ち時間などのリードタイムが必要ないという点だろう。特にコロナ禍では非接触が推奨され、自宅で診療が受けられるオンライン診療に注目が集まった。その他のメリットとして、大石氏は医学的知見が素早く得られる点を挙げる。前述のヘルスケアテクノロジーズによる調査では、「身体の不調を感じた時に、インターネットの情報を参考にしている」人が約8割いたが、一方で「自分で調べた情報を基に『重大な病だと思い込んでしまったことがある』」と答えた人も3人に1人いたそうだ。
「医療リテラシーを上げるという意味合いでは、インターネット上にある記事なども重要です。しかし、(その情報が)本当に自身の症状に当てはまっているかどうかは、医学的知見を持った人にきちんと診てもらわなければいけません」(大石氏)
一方、同氏がオンライン診療のデメリットだというのが、外傷など、オンラインだけでは診ることができない疾患が存在するという点だ。特に、緊急性の高い疾患はオンライン診療には適していない。ただ、提携先医療機関にてオンライン診療を受けた患者に対し、救急外来へ行くように勧めたケースもあるという。
また、現在オンラインだけでは診ることができない疾患についても、同氏は「今後、技術の発展でできることが増えていくだろう」と見ている。実際、海外では特殊なデバイスを使用しなくても、スマートフォンで血圧をトラッキングし、データを送ることで診療に活用する仕組みも出てきているという。
「海外に比べ、日本のオンライン診療の分野は遅れを取っています。医療業界全体で協力し、いろいろなことを変えていかなければいけないという危機感を持っています」(大石氏)