三重大学は2月17日、腸内細菌「Paraburkholderia sabiae」(P. sabiae)を投与した水槽でゼブラフィッシュを飼育することで、その後の不安行動が軽減されること、この現象に腸内細菌叢やその機能の変化が関わることを明らかにしたことを発表した。
同成果は、三重大 教育学部理科教育講座の市川俊輔准教授、三重大大学院 地域イノベーション学研究科の臧黎清特任講師、同・医学系研究科の島田康人講師(次世代創薬ゼブラフィッシュスクリーニングセンター代表兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、微生物に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Microbiology」に掲載された。
腸は第2の脳といわれ、近年の健康関連用語として「脳腸相関」といった言葉もある。さらに、脳と腸の臓器同士のコミュニケーションというだけでなく、腸内細菌と脳も密接に関わっていることもわかってきている。たとえば腸内細菌は、腸や脳での神経伝達物質合成を調節することにより、宿主の行動に影響を与えていると考えられている。
また近年は、乳酸菌やビフィズス菌など、宿主の健康に好影響を与える微生物(腸内細菌)を意味する「プロバイオティクス」といった言葉もよく使われている。特定の細菌の摂取により腸内細菌叢に影響を与えられることがわかっており、たとえば乳酸菌の一種が投与されたマウスでは、不安行動が軽減されるという研究報告がある。
今回の実験で対象とされたゼブラフィッシュは、行動試験にも利用できるモデル動物で、新しい水槽に移した直後には水槽底面に滞在する行動が観察され、これが不安行動評価試験として確立されている。そしてほかのモデル動物と同様に、ゼブラフィッシュの腸内細菌叢も宿主の行動に影響を与えることがわかっている。たとえば、抗生物質を用いて腸内細菌の生育を阻害したゼブラフィッシュは、多動性を引き起こすという。
そこで研究チームは今回、昆虫からヒトまで広範囲の動物に存在する腸内細菌として知られるが、その機能の解析がまだ進んでいないP. sabiaeに着目。P. sabiaeを投与した水槽で1か月間飼育されたゼブラフィッシュ(細菌投与ゼブラフィッシュ)について、その行動や腸内細菌叢を解析することで、脳腸相関メカニズムの解明を試みた。
まず、細菌投与ゼブラフィッシュが新しい水槽に移され、その後の行動の観察が行われた。この時、細菌投与ゼブラフィッシュの遊泳速度、遊泳加速度、遊泳距離は、大きくなる傾向があったという。また併せて、水槽底面からより広い範囲を移動する行動が示されたとした。これらの観察結果より、細菌投与ゼブラフィッシュの不安行動は軽減されているものと考えられたとする。