既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月17日、種子島宇宙センターにてH3ロケット初号機の打ち上げを試みたものの、第1段エンジン「LE-9」の起動後、機体が何らかの異常を検知したことでシーケンスが自動で停止。固体ロケットブースタ(SRB-3)への点火は行われず、打ち上げを中止した。新たな打ち上げ日は現時点で未定。

  • LE-9エンジンは噴射したものの、打ち上げを中止したH3ロケット初号機

    LE-9エンジンは噴射したものの、打ち上げを中止したH3ロケット初号機

メインエンジン起動後の打ち上げ中止は、1994年のH-IIロケット2号機以来。日本のロケットとしては約30年ぶりで、極めて珍しいといえる。

  • 種子島宇宙センターのプレスルームでは、広報担当者が説明に追われた

    種子島宇宙センターのプレスルームでは、広報担当者が説明に追われた

まず知りたいのはどこで異常が発生したのか、ということであるが、これはまだ明らかになっていない。気になるのはやはりLE-9エンジンなのだが、同日開催された記者会見に登壇したJAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャによれば、LE-9自体は正常に起動していたそうで、ここが原因とは見ていないとのこと。

H3ロケットの打ち上げシーケンスでは、打ち上げの6.3秒前にLE-9エンジンを起動。同0.4秒前にSRB-3に点火し、上昇を開始することになっていた。LE-9を先に起動するのは、液体エンジンならもし異常が見つかっても、止めることができるからだ。SRB-3は固体ロケットなので、点火したらもう何があっても飛んで行ってしまう。

  • H3ロケットのカウントダウンシーケンス

    H3ロケットのカウントダウンシーケンス (C)JAXA

今回、異常が検出されたのは、この6.3秒前から0.4秒前までの間。異常が見つかったロケットは、そのまま飛ばすわけにはいかない。そういう意味では、ロケットの安全システムとして、正常に機能したと言っていい。シーケンスの中断後、LE-9エンジンは速やかに停止しており、機体への影響は最小限に抑えられている。

2022年11月に実施した「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)では、SRB-3は非搭載だったものの、今回と同じ機体・同じ射点にて、LE-9エンジンの25秒間の燃焼を行い、正常に終了していた。CFTと違う条件の部分で問題が起きたのかどうか、という点が1つのポイントになるかもしれない。

異常の発生場所はまだ調査中で分からないものの、それを検知したのは、第1段の下部に搭載されている制御用機器。ここで異常を検知したため、SRB-3へ点火信号を送らなかったという。

  • SRB-3は「点火しなかった」のではなく「点火させなかった」

    SRB-3は「点火しなかった」のではなく「点火させなかった」 (C)JAXA

この機器のログを解析することで、それほど時間はかけずに場所の特定はできるはずだが、その原因次第で対策内容は大きく変わってくるため、現時点で、打ち上げの再開日程を見通すのは難しい。

ただ、今回の打ち上げの予備期間は3月10日まで。これを過ぎると、また関係各所との協議が必要になってしまうので、目標としていた2022年度内の打ち上げは難しくなる。天候による延期の可能性なども考慮すると、2週間程度で対策を完了させ、まずは3月早々にも再打ち上げを目指すのではないだろうか。

  • この日は青空が広がった

    この日は青空が広がった。せっかくの打ち上げ日和だったので残念

オンライン会見の後、種子島宇宙センターのプレスルームにてメディアの囲み取材に対応した岡田プロマネは、「だいち3号には2年も待ってもらっているので、1日も早く宇宙に届けたい。しかし1日を慌てることで何かを失うのも良くない。衛星のプロマネとも相談して進めていきたい」とコメントした。

  • JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャ

    JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャ

打ち上げを中止した瞬間の管制室内の様子については、特にざわつくようなこともなく、みんな冷静だったとのこと。「このメンバーなら乗り越えられる。エンジニアは本当にへこたれない。それを私は信じている」と、前を向いた。

ところでオンライン会見にて、岡田プロマネが声を詰まらせる場面があった。普段冷静な岡田プロマネにしては珍しいと筆者も思ったのだが、これは、種子島で出会って声をかけられた子供たちなどの顔を思い浮かべて「涙腺が緩んでしまった」そう。「仕事の次元とは別の思い」とのことなので、ここでフォローしておきたい。

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