国立極地研究所(極地研)は2月13日、1988年に日本の第29次南極地域観測隊が、東南極のセール・ロンダーネ山地南方に広がるナンセン氷原において採取した月の隕石「Asuka-881757」の全岩化学組成や鉱物の詳細な分析とモデル計算を行った結果、玄武岩でできた同隕石が今から39億年前に、月のマントルの低温な浅い場所で形成されたことを明らかにしたと発表した。
同成果は、極地研 地圏研究グループの山口亮准教授、同・竹之内淳志 日本学術振興会特別研究員(現・京都大学)に加え、インド・物理研究所や米・カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
現在、月の形成は、およそ44億年前、できあがってまだ1~2億年ごろの原始地球に、火星サイズの天体「テイア」が衝突した「ジャイアント・インパクト」によるものとする説が主流となっている。この時の衝突角度は浅く、そのため地球が崩壊するには至らなかったとされている。しかし、恐竜を滅ぼした約6600万年前の隕石(直径10kmほど)がかわいく見えるほどの大衝突であったため、その衝撃で地球は再びマグマオーシャンとなり、テイアの残骸と共に地球の一部も宇宙に飛び散ることとなり、それにより一時的に地球を取り巻くリングができたともいわれ、その飛び散った大量のマグマが集まって月になったとされる。できあがった当初は、月も全体が溶融したマグマオーシャンの状態だったとされている。
このマグマの海の中では、冷却するにつれて晶出したカンラン石や輝石などの鉱物がマグマの海の底に沈積しマントルを形成する一方で、軽い斜長石が表面に浮上して地殻を形成したという。さらにマグマの冷却が進むにつれて、マントル層の上にチタンに富む層や、カリウム(K)、希土類元素(REE)とリン(P)をまとめた「KREEP」と呼ばれる層が形成されたとされる。
その結果、重いチタンに富む層がマントルの上に乗る形になったため、次第にこの層が沈み、マントルの層構造が逆転する「マントルオーバーターン」という現象が発生。それに伴いKREEP成分の一部がマントル内に添加されたが、KREEPは放射性元素を多量に含んでいたため、それらが熱源となりマントルが溶融し、溶岩が地表に噴出して月の海(月表面の黒っぽい玄武岩からなる領域)が形成されたとされている。ちなみに半世紀ほど前に行われたアポロ計画などで回収された月の溶岩は、ほとんどがこのKREEPを含むタイプの岩石であったという。
一方、月隕石の中には、KREEPを含まない(KREEP-free)試料が複数存在することも知られているが、それらがどのようにして形成されたのかは、これまでのところよくわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、そのような月の玄武岩の1つである、Asuka-881757を詳しく研究し、モデル計算から形成温度や深度を推定することにしたとする。
同隕石が回収された東南極のナンセン氷原の北側に位置するセール・ロンダーネ山地のさらに北側には、日本の南極基地の1つである「あすか基地」があることから、周辺で採取された隕石は「あすか隕石」と呼ばれている(第29次観測隊は合計1597個の隕石を採取した)。