日本デジタル空間経済連盟はこのほど、東京都内で「Digital Space Conference 2023」を開催した。同イベントはメタバースをはじめデジタル空間における課題を確認し、今後の展望と理解促進について議論することを目的とする。本稿では、アフラック生命保険(以下、アフラック)がメタバースを活用して取り組んでいる、顧客体験の進化と保険管理業務の高度化についてレポートする。

アフラックが実施するDX「DX@Aflac」

アフラックのDX(デジタルトランスフォーメーション)は、「コアビジネス領域」「新たな領域」「DXを支える基盤」の大きな三本柱によって進められている。コアビジネスとは、もちろん同社が強みを持つ生命保険業務だ。新たな領域としては、これまでコアビジネスの中から得られた知見を活用して、データエコシステムの構築やヘルスケアサービスの創出を狙う。また、DX基盤ではシステムインフラや人材などの整備を進める。

  • アフラックが取り組むDXの概要

    アフラックが取り組むDXの概要

アフラックの取締役専務執行役員でCTO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)とCIDO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー)を兼務する二見通氏はステージに登場すると、「私たちが目指すのは、リアルとデジタルが融合した世界だ」と訴えた。

  • アフラック生命保険 取締役専務執行役員 / CTO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)・CIDO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー) 二見通氏

    アフラック生命保険 取締役専務執行役員 / CTO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)・CIDO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー) 二見通氏

「リアル空間でも、デジタル空間でも、欲しい時に欲しい情報をお客様が手に入れられる環境を作りたい。しかも、どのような接点であっても一貫性を持った顧客体験を提供することが重要」(二見氏)

  • リアルとデジタルで一貫した顧客体験を目指す

    リアルとデジタルで一貫した顧客体験を目指す

デジタルサービスプラットフォーム「Aflac Digital as a Service」とは?

アフラックは2022年4月、「Aflac Digital as a Service(以下、ADaaS)」の提供を開始した。ADaaSとは、アフラックが代理店や顧客に提供するクラウド型のデジタルサービスプラットフォームだ。

保険代理店は「オンライン相談」「営業サポートAI」「アフラックミラー」「ARサービス」などのサービスメニューの中から、使いたいサービスを自由に選択して導入が可能。アフラックはADaaSにより代理店のデジタル化を支援し、効率的な営業活動をサポートするとしている。

  • ADaaSで提供する各サービス

    ADaaSで提供する各サービス

アフラックミラーとは、デジタルサイネージのように店頭に設置する店舗用と、自宅に設置する卓上ミラーのような自宅用の2種類で展開するIoT(Internet of Things:モノのインターネット)端末である。アフラックは、同製品を生活者との新たな接点の創出を促す仕組みと位置付けている。

店舗用ミラーは店頭の生活者へ顧客体験を提供して、来店のきっかけを作る。店頭に設置したミラーでは保険料シミュレーションやゲームなどが可能で、詳細な相談がある場合は店舗内での対話を促す。

  • 店舗用ミラーの利用例

    店舗用ミラーの利用例

一方の家庭用ミラーは化粧用の卓上鏡程度の大きさで、持ち運びも容易だ。朝の洗顔時に鏡を覗き込めば体温や脈拍を測定できるほか、その日の運勢やストレッチのアドバイスなどを提供する。ミラーに話しかければ自身の保険の契約内容の確認や、住所などの情報更新も行えるという。

  • 家庭用ミラーの利用例

    家庭用ミラーの利用例

ADaaSで提供するARサービスでは、保険パンフレットや名刺に記載した二次元コードから、詳細な商品説明や自己紹介を行うARアバターを表示できる。パンフレットでは文字だけの情報ではなくアバターによる音声や動画で説明することで、より具体的な理解を促す。また、名刺も印象に残りやすく、顧客との会話のきっかけとなるようだ。

  • ARサービスの例

    ARサービスの例

メタバースを活用して業務を改革

改革(1)メタバースで新たな顧客接点を創出

アフラックはメタバースを活用した顧客体験の進化として、「デジタルほけんショップ」の拡充を図る。デジタルほけんショップとは、仮想空間上で顧客との接点やコミュニケーションを拡充するためのサービスで、メタバース空間上に店舗を開設して健康や保険に関する情報提供を行う。

  • デジタルほけんショップのイメージ

    デジタルほけんショップのイメージ

アバター同士の会話を通じて、リアル空間の保険代理店とそん色ない顧客対応を目指すとしている。また、保険商品の販売だけではなく、子育てや介護など将来起こり得るイベントを疑似体験し、シミュレーションによって将来備えるべきリスクに関して考えるきっかけなども提供するそうだ。

子供の性別や将来なりたい職業に応じて、各業界の著名人の話を聞き仕事を体験できる上、その職業に就くために必要となる学費の参考値などをメタバース内で体感可能だ。

  • メタバースを活用したライフシミュレーションの例

    メタバースを活用したライフシミュレーションの例

「メタバース空間はお金と時間をかければ作るのは簡単。重要なのは、せっかく作ったメタバースをどのような経済圏で使うのかであり、他社と組みながらいかに発展するのかが課題となる。当社もどうすればお客様がメタバースに来てくれるのかをパートナー企業と考えながら進化させていきたい」と二見通氏は語っていた。

改革(2)デジタルツインで保険管理業務を高度化

現在、アフラックは従来の保険契約管理業務(生命保険の引受業務や保険金の支払い)を抜本的に見直しているそうだ。「ゼロベース」で業務を見直し、コストの削減と業務の安定性を両立させることを目指すプロジェクトだという。

このプロジェクトでは、デジタル技術を前提として、場所と時間を問わないアクセスや人とAIの協業など、業務全体の大きな変革に挑む。ここに、メタバースやデジタルツインの活用を想定しているとのことだ。同社は最初の一歩として、業務プロセスの可視化(プロセスマイニング)に取り組んだ。これにより、今現在の業務フローを可視化して、遅延や以上のある業務を把握できるようになった。

将来的には業務プロセスとメタバース技術を組み合わせて、メタバース空間内にオフィスを再現したいのだそうだ。全国の拠点で働く従業員が一つのメタバースオフィスに集まり、アバターを介してコミュニケーションを取りながら働ける世界を目指しているという。

  • メタバースオフィスの将来像

    メタバースオフィスの将来像