インド宇宙研究機関(ISRO)は2023年2月3日、昨年8月に起きた新型ロケット「SSLV」の初打ち上げの失敗について、機体の異常な振動が原因だったとする調査結果を発表した。
ISROでは改修を施したうえで、今後1~2か月以内に2号機を打ち上げたいとしている。
打ち上げ失敗の原因と対策
SSLV(Small Satellite Launch Vehicle)はISROが開発した新型ロケットで、その名のとおり小型・超小型衛星を打ち上げることを目的とした小型ロケットである。
ロケットは全長34m、直径2mの4段式で、第1~3段は固体ロケット、最終段の第4段のみ液体ロケットを使う。この最終段は「VTM(Velocity Trimming Module)」と呼ばれ、速度の調節を目的とした小さなロケットエンジンが装備されている。
打ち上げ能力は高度500kmの地球低軌道に500kgで、近年需要が増加している小型・超小型衛星の打ち上げに特化している。ISROでは、低コスト、短い打ち上げ間隔、複数の衛星打ち上げや顧客のさまざまな要望に対応できる柔軟性、そして打ち上げインフラの小規模化などを目指して開発したとしている。
SSLVは、2022年8月7日に初めて打ち上げられた。ミッション名は「SSLV-D1」で、DはDevelopmentalやDemonstrationを意味し、これ自体が開発や実証を目的としたものだった。初めての打ち上げ、また開発試験の一環としての打ち上げでありながら、ISROの地球観測衛星「EOS-01」と超小型衛星1機を搭載し、高度356.2km、軌道傾斜角37.21度の軌道に投入することを目指していた。
SSLV-D1は、インド南部にあるサティシュ・ダワン宇宙センターから離昇したのち、しばらくは順調に飛行を続けていたものの、やがてロケットに不具合が発生し、予定していた軌道に到達できず、打ち上げは失敗に終わった。
それから約半年が経った2月3日、ISROは打ち上げ失敗時の状況と、原因の調査結果、対応策について発表した。
それによると、異常は第2段と第3段を分離する段階で起きたという。このとき、ロケットの機器搭載部で、想定を超える振動が短時間発生。それによりロケットの航法システムにあるすべての加速度計の値が、一時的に飽和状態となった。
実際には加速度計そのものには問題はなかったものの、SSLVに搭載されている故障を検知、診断する「FDI(Fault Detection and Isolation)」システムは、加速度計に異常が起きたと判断。「ミッション・サルベージ・モード」に入るよう指令を出した。このモードは、ロケットに異常が起きたと検知すると、その部分を使わずに(あるいは別のセンサーなどで代替するなどし)、飛行を継続するというもので、今回の場合は加速度計を使わずに飛行を継続する指令が出された。こうしたFDI(もしくはRecoveryやReconfigurationを足して「FDIR」)と呼ばれるシステムは、他のロケットや衛星でも搭載されている一般的なものである。
その後、SSLVは加速度計からのデータなしで飛行を続け、第3段と第4段の分離、第4段の燃焼開始と終了、衛星分離までこなした。
しかし、加速度計のデータがない状態では、ロケットは事前に設定された時間ベースの誘導スキームを使用して飛行するため、MEMSジャイロの誤差に応じて、機体の姿勢基準にも誤差が生まれる。また、速度は加速度計のデータから計算されるため、実際の速度もわからない状態で飛行を続けることになった。
その結果、第3段の燃焼終了時点で速度が不足し、また姿勢制御の精度も不十分だったことから、目標の軌道に乗ることはできなかった。ISROによると、今回のミッションで必要な速度は7693m/sだったものの、56m/sが不足。最終的にロケットの第4段と衛星は、高度360.56km×75.66kmの軌道には到達したものの、近地点高度が大気圏に入り込んでいるため、ロケットと衛星は地球を一周することなく、大気圏に再突入して燃え尽きることとなった。
これを受け、ISROではまず、想定以上の振動が発生した第2段と第3段の分離機構について、衝撃が少ない機構に変更するとしている。この低衝撃の分離機構は第3段と第4段の分離にも使用されているものだという。
また、FDIシステムのロジックを見直し、1号機の飛行データなどに基づき、より現実的なアプローチを取るように変更。今回のようなセンサーの故障が疑われる事態が起きた場合には、サルベージ・モードに入る前に、より時間をかけて再チェックなどを行うようにしたという。
さらに機器搭載部や衛星搭載部の構造設計を改修し、振動を抑制。くわえて慣性飛行システムのセンサーに異常が発生した場合には、インドが独自に整備している衛星測位システム「NavIC」のデータを使用して飛行するモードを追加したとしている。
また、従来のサルベージ・モードでは、第4段のVTMはシステムの一部には含まれていなかったが、これを含むように改修。これにより、今回のように第3段までの燃焼で速度が足らないことがわかった場合には、VTMによる噴射を工夫し、最低限の軌道には入れるような飛行が可能になるとしている。
ISROは声明の中で「SSLV-D1の打ち上げは、この新しいロケットの開発の一環でした。実際の打ち上げを通じてロケットの設計や構造を検証し、打ち上げ前の試験などではわからない未知の部分を明らかにすることが目的でした。そして飛行を通じて、すべてのシステムについて、性能の実証を果たせたと考えています」とコメントしている。
すでに前述の対策や改修を施した試験機2号機の打ち上げ準備が始まっており、今年第1四半期(2023年3月まで)に打ち上げることを計画しているという。この2号機には、ISROの地球観測衛星「EOS-07」と超小型衛星2機の、総質量334kgのペイロードを搭載し、高度450km、軌道傾斜角37.2度の地球低軌道に打ち上げるとしている。
参考文献
・SSLV-D2/EOS-07 Mission: Second Developmental Flight of SSLV
・Indian Space Research Organisation
・SSLV-D1/EOS-02 Mission