九州大学(九大)は1月17日、福岡県福津市西郷川の汽水域での調査をもとに、伝統漁の漁具を参考にして開発された研究調査用捕獲装置「石倉カゴ」に集まるニホンウナギ(ウナギ)は、内部に狭い浮石間隙がある場合に中長期的に定着しやすいだけでなく、餌となる小型のかに類や魚類がより多く棲み着くため、定着を通じてウナギの肥満度を向上させることを発見したと発表した。
同成果は、九大大学院 農学研究院の大戸夢木学術研究員(現・水産研究・教育機構水産大学校)、同・坂上嶺学術研究員(現・北海道立総合研究機構)、同・望岡典隆特任教授、同・生物資源環境科学府の松重一輝大学院生(現・同農学研究院助教)、北九州市立自然史・歴史博物館の日比野友亮学芸員、全国内水面漁業協同組合連合会の内田和男専務理事(現・水産研究・教育機構)らの共同研究チームによるもの。詳細は2本の論文として、「日本水産学会が刊行する学会誌」と、汽水域の生態学を扱う学術誌「Estuaries and Coasts」に掲載された。
ウナギは日本における重要な水産資源の1つだが、その漁獲高は減少の一途をたどっており、2013年には環境省により絶滅危惧IB類に、翌2014年には国際自然保護連合により絶滅の危機に瀕している種(EN)に指定された。そのため、ウナギの生態を念頭においた資源保護方策の実施が強く求められているが、根本的な解決には至っていない。
ウナギは、河川内で成長・成熟した後に外洋へと産卵回遊を行う降河回遊魚で、河川内でのウナギの個体密度は、一般に淡水域より汽水域で高いことが知られている。しかし、周辺に人口が集中しやすい汽水域では、コンクリート護岸化などによる環境撹乱が著しく、礫石や抽水植物のすき間などといったウナギの隠れ家が失われてしまっている。そのことから、ウナギが健全に成長・成熟を遂げ、個体数を回復させるためには、かつての豊かな汽水域の成育場所を取り戻すことが重要な課題とされている。
ウナギは石の間隙を好むことは古くから経験的に知られており、その間隙構造への選好性を正確に定量・比較することは、適切な成育場所を取り戻すために必要なことの1つだ。そこで今回の研究では、西日本で現在も行われているウナギの伝統漁の漁具を参考にして石倉カゴが開発された。
同装置は、外側が堅牢なカゴで包まれており、その内部には大小さまざまな石を詰めることが可能。また、内部に入る個体を定量的に捕獲することもできるという。そこで研究チームは今回、汽水域におけるウナギの隠れ家を効果的に復元することを目的に、さまざまな広さの浮石間隙がウナギの定着や成長に及ぼす効果を比較検証することにしたとする。