米宇宙企業ヴァージン・オービットは2023年1月10日、小型ロケット「ローンチャーワン」の打ち上げに失敗した。
打ち上げは6機目で失敗は2機目。今回が初の英国からの打ち上げだった。過去、英国本土から衛星が打ち上げられたことはなく、成功すれば歴史的快挙となり、また英国の宇宙ビジネスにとって大きなはずみにもなるはずだった。
打ち上げの拠点となったコーンウォール宇宙港の代表メリッサ・ソープ氏は、「宇宙は困難な場所ですが、私たちはまだ始まったばかりなのです」とコメントしている。
ヴァージン・オービットのローンチャーワンとは?
ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は、米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、小型ロケットによる衛星打ち上げビジネスを展開している。ヴァージン・レコードやヴァージン・アトランティック航空などを傘下にもつことで知られる、英国ヴァージン・グループの一社でもある。
同社のロケット「ローンチャーワン(LauncherOne、ランチャーワンとも)」は、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式ロケットで、オプションで3段目を追加することも可能。高度500kmの太陽同期軌道に300kgの打ち上げ能力をもち、小型・超小型衛星に特化した打ち上げサービスを提供している。
同機の最大の特徴は空中発射型である点で、ボーイング747を改造した航空機「コズミック・ガール」で上空まで運ばれ、空中で発射される。このため、打ち上げられる軌道の自由度が高かったり、専用の発射場がいらず、設備などを整えればどこの空港・飛行場でも運用可能であったりなど、高い柔軟性と機動性をもつ。
ローンチャーワンは2020年5月、米国カリフォルニア州のモハーヴェ航空&宇宙港から初の打ち上げ試験を実施するも、1段目エンジンの点火直後に異常が発生し、失敗。改修を経て、2021年1月18日に2号機にして初の打ち上げ成功を果たした。
その後、5号機まで4機連続で打ち上げ成功を重ね、民間企業の衛星のほか、米国航空宇宙局(NASA)や米軍の衛星の打ち上げも手掛けるなど、順調な歩みを見せていた。
2度目の打ち上げ失敗
そんななか、今回の6号機は、初めて英国から打ち上げが行われることになった。
前述のように、空中発射ロケットの運用には専用の発射場がいらず、設備などを整えればどこの空港・飛行場でも運用可能である。1~5号機では米国のモハーヴェが使われたが、今回は初めて、英国コーンウォールにある「コーンウォール宇宙港」が使われることになった。同宇宙港はニューキー空港内に新設されたもので、英国に宇宙ビジネスを根付かせるため、同社や英国政府、関係省庁などの肝いりで整備が進められた。
ローンチャーワンの6号機は、コズミック・ガールの翼下に懸架され、日本時間10日7時2分ごろ、コーンウォール宇宙港を離陸。アイルランドの南西の大西洋上へ向けて飛行した。
そして8時11分ごろ、高度約3万5000フィート(約1万700m)で投下され、エンジンに点火して飛行を始めた。
1段目の燃焼や2段目との切り離しは正常だったものの、その後、2段目エンジンの燃焼中になんらかのトラブルが発生し、打ち上げは失敗に終わった。
ロケットには米国防総省や英国企業、ポーランド、オマーンなどがそれぞれ開発した、計9機の衛星が搭載されていたが、すべてロケットとともに失われることになった。なお、コズミック・ガールはその後、無事に滑走路に着陸、帰還している。
失敗の原因などは現時点でまだわかっていない。
ヴァージン・オービットのダン・ハートCEOは「技術的な問題により、目標としていた軌道に到達できませんでした。失敗の状況を理解し、対応策を施して打ち上げを再開させるため、たゆまぬ努力を続けます」とコメントしている。
新しいロケットが打ち上げに失敗することは珍しいことではない。ただ、ローンチャーワンは2号機から5号機まで連続成功し、比較的信頼性が高いとみられていただけに、関係者は大きな衝撃を受けている。
今回の失敗が、ヴァージン・オービットの事業、財政にどのような影響を与えるかはまだわかっていない。ただ、ロケット打ち上げをビジネスとして成功させるには、高頻度かつ安定した打ち上げをこなすことが大前提であり、同社にとって手痛い出来事となったことは間違いない。
また、同社は日本の大分空港からもローンチャーワンを運用する計画を進めており、早ければ今年から運用が始まる予定だったが、今回の失敗により遅れることになろう。
初の英国からの打ち上げ
今回の打ち上げは、初の英国本土からの衛星打ち上げでもあった。
英国本土は地理的に衛星の打ち上げが難しく、1971年の国産ロケットによる初の衛星打ち上げは、英連邦のひとつであるオーストラリアから行われた。他の西欧諸国も同様で、フランスやイタリアも本土からの打ち上げが難しいため、アフリカや南米から打ち上げている。
そのため、今回の打ち上げは英国本土、そして西欧諸国の本土から初の衛星打ち上げという、歴史的な出来事となるはずだった。
さらに、ヴァージン・オービットは英国のヴァージン・グループを母体としていることから、英国から打ち上げるということは同社にとって大きな意味があった。くわえて、ヴァージン・オービットにはミッション名を有名な楽曲にちなんで名付けるという伝統があり、今回のミッションはザ・ローリング・ストーンズの名曲にちなんで「スタート・ミー・アップ」と命名されていた。ザ・ローリング・ストーンズは英国、そして世界を代表するロックバンドであり、「スタート・ミー・アップ」もまたロックシーンの歴史における代表曲のひとつであり、さらに当時ヴァージン・レコードからリリースされた楽曲でもあること相まって、その意気込みのほどが伺い知れる。
残念な結果に終わったものの、コーンウォール宇宙港の代表を務めるメリッサ・ソープ氏は、打ち上げ失敗後に次のような前向きなメッセージを発表している。
「私たちは、英国や米国の宇宙産業のパートナーたちと共に成し遂げたことすべてを、信じられないほど誇りに思っています。
残念ながら、今回のミッションを成功させることができませんでした。ですが、今日、私たちは何百万人もの人々にインスピレーションを与え、そして今後もさらに多くの人々に与える続けることを目指します。――私たちの大志だけでなく、不屈の精神で。
宇宙は困難な場所ですが、私たちはまだ始まったばかりなのです」。
参考文献
・HISTORIC UK MISSION REACHES SPACE, FALLS SHORT OF ORBIT | Virgin Orbit
・VIRGIN ORBIT COMPLETES FINAL SUCCESSFUL END-TO-END REHEARSAL - ALL SYSTEMS CURRENTLY ‘GREEN’ PROCEEDING TOWARD HISTORIC U.K. LAUNCH | Virgin Orbit
・Ready to rocket the UK space industry to new heights: Virgin Orbit’s LauncherOne arrives at Spaceport Cornwall - Spaceport Cornwall
・Start Me Up Livestream | Virgin Orbit - YouTube