世の中で生み出されるデータ量は日ごとに増え、以前に増してデータ活用の重要性が高まっている。自社が保有する多量のデータを次のビジネスにつなげるために、適切にデータを分析する知識や技術が必要だ。

長引くコロナ禍に伴って、リスキリングとしてプログラミングやデータ分析について学ぶ人も増えているのだろう。棚の目立つ位置に「AI人材」「プログラミング」「データ分析」などの文字が並んでいる書店も珍しくない。

昨今データ分析の重要性が高まる中で、エンジニアの技術力向上に一役買っているのが「データ分析コンペ」だ。提示された課題に対して、機械学習の知見や技術を生かしてより精度の高いモデルの構築に挑むコンペティション(競技)である。

データ分析コンペといえば、米Googleが提供するプラットフォーム「Kaggle」の知名度が高いが、実は日本発のデータ分析コンペプラットフォームを提供する企業も存在する。その一つが「Nishika」。2019年にサービスをローンチすると、現在では国内でのデータサイエンティストの登竜門としての存在を確立しつつある。Nishikaの代表取締役 CEOである山下達朗氏に、2022年の振り返りと2023年の抱負を聞いた。

  • Nishika 代表取締役 CEO 山下達朗氏

    Nishika 代表取締役 CEO 山下達朗氏

コンペを通じて、登録者にAI人材に特化した求人を紹介

Nishikaは現在、主に「AIのコンサルティングおよび開発」「AI人材に特化したダイレクトリクルーティングサービス」「AIやデータサイエンスに関する研修」の3事業を展開している。

同社の事業を支えているのが、データサイエンティストのプラットフォーム「Nishika」である。独自色の強いデータ分析コンペが特徴で、過去には「多数の作家の過去の作品の中から芥川龍之介が執筆した作品を機械学習により判定」や「過去数年間のJ1リーグのプロサッカー選手たちのデータから翌年の各選手の出場試合時間を予測する」などを開催した。

自社が主催するコンペに加えて、他社がホストとなって実際の業務課題を解決するためのコンペなども開催する。Nishikaはこれらのコンペを通じて、登録者向けに求人情報の紹介などを行うプラットフォームだ。コンペに参加しながら技術や知識を身に付けた人や、これからデータサイエンティストを目指す人に向けて、転職や副業を紹介しているという。

起業のきっかけ、山下社長が感じたデータ分析コンペの面白さとは

山下氏がNishikaを始めたのは、「Kaggleの存在を知り、コンペの仕組みが面白いと思ったから」だそうだ。機械学習のモデルの精度を競い、明確にスコアが出るゲーム性に惹かれたとのこと。また、その結果として人や社会の役に立つ仕組みも作りたかったという。

そうは言っても、もともと起業したい意向が強かったというわけではないようだ。「新卒でコンサルティング企業に入社し、それ以来コンサル業務は好きだが、30代半ばに入って少しずつ自分で事業をやってみたいと思うようになった」と、山下氏は話す。

  • Nishika 代表取締役 CEO 山下達朗氏

「自分の今後のキャリアを考えたときに、転職なども検討したのだが、自分の力で新しい価値を世の中に提供している手触り感が欲しかったので思い切って起業した」とも、同氏は話していた。起業にあたっては、これまで歩んできたキャリアが不確かになってしまうリスクについて最も悩んだとのことだ。

Nishikaの企業ビジョンは「テクノロジーですべての人が誇りを持てる社会の実現を」である。山下氏は漠然と「テクノロジーで世の中を変えられるのが素晴らしいこと」だと思っていたそうで、データサイエンスやAI技術の将来に可能性を感じたことから、データサイエンティスト向けのプラットフォームを手掛けることに決めた。

「将来は、世の中のすべての人が自分の仕事や生き方に"自分にしかできない"という誇らしい気持ちを持てるようになってほしい。そのために単純作業や機械的な正確性が求められる業務はAIによって効率化し、人は人ならではのより付加価値が高い仕事ができる世界になれば」(山下氏)

同氏が感じるデータ分析コンペの面白さは、自身の技術だけで勝ち上がれる点だという。特に海外のコンペでは、上位に入賞した人材がより高いレベルの企業に引き抜かれる例も珍しくない。「力を付けたい人やスキルアップしたい人が前向きにNishikaでデータ分析コンペに挑戦して、その結果として身に付いた技術が社会に受け入れられる世の中になれば」とコメントしていた。

2023年はユーザー間のコミュニティの発展に尽力する

Nishikaの2022年のビジネスのハイライトは、ユニークなコンペに尽きる。特許庁と共に類似する商標画像を検知出来る機械学習モデルのコンペを開催したほか、防衛装備庁と共に戦闘機の空対空目視外戦闘シミュレータを用いた空戦行動判断モデルのコンペなども開催した。

社会全体がコロナ禍に慣れてきたことから、新しい働き方やDX(デジタルトランスフォーメーション)が少しずつ世間に浸透してきた。同社が手掛けるAI開発・コンサルティング事業も順調にニーズをつかめているようだ。同様に、同社のプラットフォームで活躍するAI人材に対する需要も高まっているという。

さらに、リスキリングやAI人材育成の観点からもデータサイエンスのスキルは重宝されているそうで、データ分析のスキルを伸ばしたいという企業からの要望も感じているとのこと。

そこで、同社は2022年にダイレクトリクルーティングサービスを開始した。これまでの人材紹介サービスはNishikaプラットフォーム上の掲示板としての機能しか備えてなかったのだが、ダイレクトリクルーティングサービスを開始したことで、企業とデータ分析人材の密な交流を促す。

山下氏は2023年の抱負について「当社は今年で4期目に入るので、これまで立ち上げてきた事業基盤をより強固にする年にしたい。特に人材事業の足腰を強化していく」と語る。

  • Nishika 代表取締役 CEO 山下達朗氏

企業としても成長しながら、今年はNishikaプラットフォームにおいてユーザー間のコミュニティの発展に寄与する方針だ。ユーザー同士の助け合いやコミュニケーションを支援するチュータリング機能を実装するなど、データ分析に挑戦する人のスキルアップを支援する仕組みを整備するとしている。