東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は12月27日、ロシアとドイツが共同運用する「Spectrum-Roentgen-Gamma」衛星に搭載されたX線望遠鏡「SRG/eROSITA」の全天サーベイによるデータを用いて、「ミッシングバリオン問題」の解明につながる宇宙大規模構造「フィラメント」の高温プラズマからの熱放射に関連したX線を検出したことを発表した。

同成果は、仏・宇宙物理学研究所のナビラ・アガニム氏、Kavli IPMUの谷村英樹特任研究員らによる国際共同研究チーム「ByoPiC」によるもの。詳細は、天文学と天体物理学を扱う学術誌「Astronomy and Astrophysics」に掲載された。

宇宙には「大規模構造」または「宇宙の網」と呼ばれる、銀河の偏った配置が存在している。銀河は重力によって100個前後が集り銀河団を構成し、その銀河団もほかの銀河団とつながりあって、細長いひも状の構造であるフィラメントを形成している。また、フィラメントと別のフィラメントの間には、銀河などがほぼ存在しない「ボイド」と呼ばれる広大な空洞があり、直径900億光年以上とされる現在の宇宙全体を俯瞰すると、全体として網目状の構造となっているとされる。

  • SRG/eROSITA衛星による銀河団と宇宙ウェブフィラメントのX線放射。(C)Tanimura, Aghanim (CNRS)& eROSITA

    SRG/eROSITA衛星による銀河団と宇宙ウェブフィラメントのX線放射。(C)Tanimura, Aghanim (CNRS)& eROSITA(出所:Kavli IPMU Webサイト)

このような広大な宇宙全体のエネルギーを種類別に見ると、およそ68.3%がまったくの未知のものであるダークエネルギーで、それに次ぐのが通常物質とは重力で相互作用するが未検出のダークマターで、およそ26.8%だ。そして、我々人類や星などを形成する陽子や中性子などを含む通常物質「バリオン」は、わずか4.9%しかない。また、そのバリオンのおよそ9割もガスとして宇宙を漂っており、残りのおよそ1割が星などだという。

このように検出可能なバリオンは宇宙全体の5%に満たないのだが、実はその半分から3分の1は実際には検出できていないといい、これをミッシングバリオン問題と呼ぶ。検出されていないバリオンがどこに隠れているのかについてはこれまでのところ、宇宙の構造形成シミュレーションなどを用いた研究により、宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されている。

そうした中、ドイツと米国が1990年から1992年まで運用した極紫外線衛星(X線宇宙望遠鏡)「ROSAT」が取得した全天サーベイデータを用いて、約1万5000個の大規模宇宙フィラメントからのX線信号を統計的に解析したのがByoPiCチームだ。そして解析の結果、大規模構造におけるバリオンの欠損を明らかにすることに成功した。

さらに今回の研究では、2019年に打ち上げられたSRG/eROSITAの最新X線サーベイデータが用いられた。その結果、フィラメントの高温プラズマからの熱放射に関連したX線信号の検出に成功したという。このX線信号は、SRG/eROSITA共同研究によって発表された最初の140 deg2サーベイ内のわずか460個のフィラメントから検出されたもので、その詳細解析からプラズマの密度と温度を精密に捉えることにも成功したとする。

しかし研究チームは、熱放射の起源とそれがどのように宇宙の大規模構造中で進化してきたかという基本的な問題については、今回の研究では解明に至らなかったとする。そして、今後公開される予定のSRG/eROSITAの最新データや、将来計画されている大型X線観測装置を利用して明らかにする必要があるとした。