セールスフォース・ジャパンは11月29・30日の両日、ハイブリッド・イベント「Salesforce World Tour Tokyo 2022」を開催した。本記事では、基調講演を紹介する。
サステナビリティ施策として気候変動への取り組みを強化
同イベントは、東京と大阪の2会場および、オンラインで実施した。まず、同社代表取締役会長兼社長の小出伸一氏が登壇し、主に同社の社会貢献について語った。
米Salesforceの創立以来23年間、同社は「新しいカタチでお客様とつながる」というビジョンを持ち続け、その包括的なソリューションが「Customer 360」だという。
小出氏は、「これで、日本のお客様のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援していきたい」と、意気込みを語る。
同社のビジョンを後押しする5つの企業理念(コア・バリュー)の筆頭に、小出氏は「信頼」を挙げる。
「我々の最大の、最もプライオリティの高いコア・バリューは信頼です」(小出氏)
続くカスタマー・サクセス(成功)やイノベーションに加え、4番目に挙げた平等も企業文化として重要だという。これは、「イノベーションを起こす最大の要素は、個性と個性の化学融合、また多様性を尊重し尊敬し合うこと」(小出氏)との考えからだ。
最後のサステナビリティは、2022年に新たに追加したもの。小出氏は、「地球環境全てにおいて、サステナビリティにコミットしていく」姿勢からだと語った。
同社のCRM製品が世界でも高いシェアを保っていること、いくつかのカスタマー・サクセスの例を紹介し、2022年の売上が311億米ドルになる見込みであることに触れ、小出氏は「企業として売上追求、利益確保、雇用確保は、大変重要なメトリクス」としながらも、社会貢献活動を重要視する姿勢を見せる。
同社は創業以来、就業時間の1%・株式の1%・製品の1%を社会に還元する「1-1-1モデル」に取り組んでいるという。これは、「ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォームであるという経営理念」だと小出氏は説明する。
さらに現在は、気候変動対策に注力しているという。まず、脱炭素にITテクノロジーで貢献するスタートアップ企業に、同社は投資しているとのことだ。加えて、植林活動にも力を入れている。2022年に新社屋を開設したが、その祝いの代わりに東京・檜原村での植林活動への参加を呼びかけたという。
グローバルな取り組みとして小出氏は、世界で2030年までに1兆本の木を植林し保全しようという活動である1t.orgへの協力を紹介した。
IT企業ならではの取り組みとしては、気候変動に関するデータを把握・追跡して管理する仕組みである「Net Zero Cloud」を、小出氏は挙げた。
雇用創出・収益向上を実現する「トレイルブレイザー」とは
小出氏は続く大きなテーマとして、トレイルブレイザーという言葉を掲げた。「ビジネスに変化を起こし、新技術を取り入れ、社会や世界をより良い方向へ導く人々」(小出氏)を指すとのこと。
その支えとなるのが、トレイルブレイザー・エコシステムだという。ここにはSalesforceのプロフェッショナル人材が全世界で17万人おり、AppExchangeを通じて導入したユーザー開発アプリケーションが1100万件あるという。
さらに、互いの知識を共有しスキルを高め合うコミュニティが、世界100カ国に2100以上あり、1800万人が参加しているとのことだ。
Trailheadでリスキリングを支援
同社はリスキリングにもいち早く取り組んでいるという。Trailheadというオンライン学習プログラムでは、既に全世界で5700万のバッジ(修了証)を授与したそうだ。
「世界に先駆けて、リスキリングも支援していきたい」(小出氏)
Customer 360の日本市場投入は2023年
続いて、米Salesforceの共同創設者でグローバルCTOのパーカー・ハリス氏が登場し、同社の製品やサービスについて解説した。
コロナ禍で普及した新しい働き方では、多種多様の新たなツールが使われている。その中で同社は、Slackを発見したという。
もし現在創業するなら、Digital HQを用いたバーチャルな世界を選ぶと語るハリス氏は、「それを実現するのがSlackであり、協業が可能になります」という。
Slackのハドル・ミーティングではビデオ会議も可能になり、ファイルや画面を共有でき、会話の内容を全てSlackチャンネルに保存し、後で検索も可能とのことだ。
Digital HQは、SalesforceのCustomer 360にも接続しているという。同社はSales Cloud for Slackなど15のインテグレーションを提供しており、今後さらに追加していくとハリス氏は語る。
増大し続けるデータ量にもセキュアに対応していく
ハリス氏は創業以来の23年間に、企業買収などを付いて多くの優れたテクノロジーを入手してきたと振り返る。しかし、ネットワークに接続するデバイスの増加により、流通するデータ量も劇的に拡大するという。
先ほど小出氏は、同社のトップ・バリューが信頼だと語ったが、これを受ける形でハリス氏は、「お預かりするあらゆるデータは安全であり、セキュアに保存されています」と裏打ちする。
データのプライバシーやレジデンシー、拡張性も備えていると、ハリス氏は語る。またセキュリティに関しては、外部の暗号化プロバイダなどとも連携しているという。これらを支えるのがHyperforceだと、ハリス氏は胸を張る。
自動化によりリアルタイムの新たな顧客体験を実現
扱うデータ量が増大すると、人の手では処理・管理が難しくなる。ハリス氏は、「Salesforce Flowが、ビジネス・プロセスの自動化を図っていきます」と説明する。
Salesforce Flowは1日あたり440億以上のフローを扱い、自動化により「労働時間を1090時間短縮し、2兆ドルものビジネス価値を生み出しています」(ハリス氏)とのことだ。
データのビジネスでの活用に関して、ハリス氏はEコマースを例に取る。同社のAI(人工知能)であるSalesforce Einsteinのプロジェクションにより、例えば顧客が買いたいと思う商品の提案や、ボットによる顧客ニーズの理解が可能だという。
一方で、リアルの店舗などを含め56%の顧客が「自分が単なる数字として暑かれテイルと感じる」とのデータを、ハリス氏は示す。すなわち、顧客の期待が高い半面、ハイパー・パーソナライズされたインタラクションを得ていると感じていないということだ。
「お客様が知ってもらいたいとリアルタイムで期待することに、我々が対応していきます」(ハリス氏)
「Salesforce CDPは創業以来の最大の革新」
その具現化が、Salesforce CDPだという。ハリス氏は「創業以来の最も大きな革新になります」と力強く語る。これによって、Customer 360のハイパースケール・データ・プラットフォームやEinstein AI、ワークフローの自動化がリアルタイムになるという。
データに関しては、セールス、サービス、マーケティング、EC、AIなどのものがリアルタイムでストリーミングとして、このプラットフォームに入ってくるとのこと。また、顧客のプロファイルをリアルタイムで得られるようになるという。
これらにより、特別な顧客体験を提供すると、パーカー氏は胸を張る。
加えて、Salesforce CDPは業界特有のデータを取り込むことが可能であり、流通業にとどまらず、金融やヘルスケアなど12の業界に対応し、その数は今後さらに増えていくという。
Customer 360は日本では2023年に提供開始予定
Salesforce CDPのデモに続き、ハリス氏は「、オープンで拡張可能です」と、その柔軟性を説いた。例えば、デモで用いたSnowflakeとは双方向のインテグレーションを実現できること、またGoogle、Amazon、Metaなどファースト・パーティ広告各社とパートナーシップを締結していること、Amazon Web Service(AWS)などとのAIモデル共有を、ハリス氏は例示する。
また、Customer 360により、ユーザー企業がITコストを25%、サポート費用を28%それぞれ削減でき、収益を29%増加できると語る。Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud、Commerce Cloud、Tableau、MuleSoft、Slackそれぞれのメリットを説いた上で、ハリス氏は「Customer 360は、CDPの力を得ました。これは素晴らしいイノベーションであると思っております」と自負する。
そして、「日本では2023年に提供予定です」と明かし、自身の講演を結んだ。