セルシスは12月7日、100%子会社である&DC3(アンドディーシースリー)がブロックチェーン技術を活用した、デジタルコンテンツ流通のための基盤ソリューション「DC3」の提供を開始するとして、東京都内で記者会見を開いた。
DC3はデジタルコンテンツを一意な「モノ」として識別して扱えるようにすることを目的に開発された、Web3時代に対応する基盤ソリューションだ。ブロックチェーン技術を用いているため、従来のデジタルコンテンツの課題であるサービス終了に伴うコンテンツの消失を防げるだけでなく、サービス間でのコンテンツの連携や真正の証明が困難である点などを解決できるという。
同ソリューションではコンテンツを一つ一つ別の物として扱うため、サービス間での移動や二次流通、貸し借り、加工・編集を同一のプラットフォーム上で管理できるようになる。また、ユーザーは複数のサービスをまたいで自身のコンテンツを保有することが可能になる。
セルシスの代表取締役社長である成島啓氏は「アニメーション制作ソフト『RETAS!PRO』やペイントソフト『CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)』などを手掛ける当社は、デジタルコンテンツ業界においてさまざまなイノベーションに挑戦してきた。DC3はこうしたバックグラウンドを持つセルシスならではの、Web3時代に向けたデジタルコンテンツ流通の基盤ソリューションである」と紹介していた。
DC3はあくまでデジタルコンテンツ流通の基盤を提供するソリューションであり、直接デジタルコンテンツの販売などはできない。デジタルコンテンツを提供する企業がDC3を自社のサービスに組み込むことで、既存の顧客基盤や課金システム、コンテンツ管理システムなどを継続して使いながら、新たなコンテンツ流通の仕組みを構築できる。
DC3はデジタルコンテンツを一意に識別可能な物として扱うために、一度「マスターコンテンツ」を作成する過程が必要となる点が特徴的だ。従来の配信型のデジタルコンテンツは、サービス提供者が保有するサーバ上のデータを閲覧権を付与して、エンドユーザーのプレイヤー上に表示する仕組みが多かった。しかし、DC3では一度マスターコンテンツを作成してから、さらに、エンドユーザーに流通するDC3コンテンツを作成する過程を経る。
いわば、マスターコンテンツはDC3コンテンツを生み出すための「金型」に相当する。マスターコンテンツに専用のフォーマットなどはなく、画像・映像や音楽、ゲームアイテムなどあらゆるデジタルデータを利用できるとのことだ。
説明会では、電子コミックのマスターコンテンツを作成するデモンストレーションが行われた。
マスターコンテンツを作成する段階では、エンドユーザーによるコンテンツのカット&ペースト(画像の切り貼り)の可否や、マスターコンテンツの譲渡の可否、マスターコンテンツから作成したDC3コンテンツの譲渡の可否および制限回数、DC3コンテンツの製造数量上限などを設定できる。
製造の上限回数を設定することで、大量配布だけでなく希少価値を高めるようなコンテンツの取り扱いも可能にしている。
また、この段階でコンテンツに対応するプレイヤーを選択する。
マスターコンテンツの登録時、自動的に3Dモデル化したサムネイルが作成される。これにより、あたかもリアルな物のように流通することを狙っているという。また、エンドユーザーは保有するコンテンツをマイルーム内に展示できる。
なお、マイルームは外部のユーザーに向けて公開可能だ。コレクション性を高めるだけでなく、将来的にはメタバース空間内での取り扱いも視野に入れているようだ。
システムの観点から説明すると、DC3がサービス提供者に提供するのはデジタルコンテンツを物として扱うための「DC3モジュール」だ。このモジュールを既存サービスにAPI(Application Programming Interface)連携によって組み込むことで、デジタルコンテンツを単なるデータではなく物として流通させられるようになる。
サービスをまたいだコンテンツの取り扱いを可能にするのは「Common DC3モジュール」。ブロックチェーンのデータ管理などを行うのがこちらのモジュールである。各サービスに組み込んだDC3モジュールとCommon DC3モジュールは同期しながら機能する。
DC3開発ディレクターの高橋雅道氏は同ソリューションを運送業者になぞらえて、以下のように説明していた。
「DC3はコンテンツの中身やデータフォーマット自体に関与するのではなく、あくまでデジタルコンテンツを適切に流通するための基盤である。運送業者は何らかの物が入った箱の運送を請け負うが、箱の中身が本なのかCDなのかDVDなのかに関わらず目的地まで運送する役割を持つ。それと同様で、DC3はデータをどのように扱うのかを取り決めているだけであり、今あるデータ形式はもちろん、今後生まれてくるであろうデータ形式にも対応できるプラットフォームだ」
説明会の後半には「令和の白ギャル」として活躍中のモデル・タレントのゆうちゃみ(古川優奈)氏とITジャーナリストとして活動する三上洋氏が登場し、「Web3」をテーマにトークセッションを繰り広げた。
「Web3という言葉は聞いたことがない」と話すゆうちゃみ氏に対し、三上氏は「Web3というからにはWeb2とWeb1があり、現在の主流はWeb2。特定のIT企業が運営しているサービスの中でコンテンツをやり取りしているWeb2から、そのやり取りをブロックチェーン技術によって『僕たちの手に取り戻しましょう』という動きの中で出てきているのがWeb3」と解説。
ここで、ゆうちゃみ氏は「ブロックチェーンって流行のファッションアイテム?」と発言して会場の笑いを誘った。三上氏は「ブロックがチェーンになっているからブロックチェーンと呼ぶ。ブロックとは取引を記録する台帳のようなもので、この台帳を世界中のみんなで管理するのがブロックチェーンの仕組み」と説明していた。
DC3のようなデジタルコンテンツを取り扱うサービスについて聞かれると、「1月に妹(ゆいちゃみ氏)が誕生日を迎え18歳になるので、デジタルコンテンツを何か送ってみようと思えた」と、ゆうちゃみ氏は語っていた。
セルシスおよび&DC3の取締役会長を務める川上陽介氏が「これまで、ITに関するパラダイムシフトはアメリカを中心に起こってきた。しかしWeb3時代のデジタルコンテンツのパラダイムシフトは、コンテンツ文化が咲き誇る日本から発信していきたいと強く思っている。投機対象となるようなトークンの使い方ではなく、コンテンツの価値を深く理解して愛してくれる人たちがもっとハッピーになれるよう、当社はDC3によって本日新しい1歩を踏み出す」と述べ、説明会を締めくくった。