東京工業大学(東工大)と核融合研究所(核融合研)は12月5日、腐食性の高い高温により液体金属スズ(Sn)と、核融合炉の候補構造材である低放射化フェライト鋼との化学的共存性を明らかにし、将来の核融合炉への採用が検討されている先進的な受熱機器「液体金属スズダイバータ」の開発に見通しが得られたことを共同で発表した。

同成果は、東工大 科学技術創成研究院ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授、同大学 工学院機械系の宮川幸大大学院生(研究当時)、同大学 環境・社会理工学院融合理工学系の北村嘉規大学院生、同大学 物質理工学院材料系のオ・ミンホ助教、核融合研 ヘリカル研究部の田中照也准教授らの共同研究チームによるもの。なお詳細は、酸化を含む腐食の発生と制御に関連する幅広い分野を扱う学術誌「Corrosion Science」に掲載された。

ダイバータは、核融合炉でプラズマの純度を維持するため、その中の不純物をガス化して排気用ポンプへと導くという、核融合炉における最重要機器の1つだ。その構造材表面には荷電粒子(プラズマ)が衝突するため、大気圏に再突入した際の宇宙機と同等の極めて高い熱負荷にさらされるという。これまでは、タングステンのような耐熱性の高い金属ブロックをプラズマと接触する部分に配置して、高温高圧水で冷却する「固体ダイバータ」の研究開発が進められてきた。実際、国際核融合実験炉「ITER」や、日本国内の将来計画の「核融合原型炉」でもこの方式が採用される予定だ。

それに対して液体金属ダイバータは、優れた冷却性能を有する液体金属でダイバータの構造材料を覆うことでプラズマから保護するという、革新的な方式だ。液体金属の候補としては、融点が232℃と比較的低く、高温時の蒸気圧がほかの液体金属に比べて低いなどの理由から、スズが検討されている。さらに液体金属スズなら、プラズマにより高温に加熱されても蒸発しづらく、さらに蒸発した金属がプラズマへ混ざりにくいという長所も有する。しかし、液体金属スズは構造材を腐食しやすいことや、高温条件では反応性が高いことなど、実用化に向けた大きな課題も抱えていた。

  • (a)スズの食器。(b)液体金属流体。(c)液体金属ダイバータの仕組みと腐食の課題。

    (a)スズの食器。(b)液体金属流体。(c)液体金属ダイバータの仕組みと腐食の課題。(出所:東工大プレスリリースPDF)

そこで研究チームは今回、液体金属スズを対象とし、核融合炉構造材の腐食メカニズムの解明と、耐食性を示す材料の発見に取り組むことにしたという。