快活フロンティアは、ネットカフェを主軸にカラオケやダーツなどのシェアリングスペース業として快活CLUBを拡大してきた。東南アジアの雰囲気がある店舗での滞在中はドリンクやアイスクリームを自由に飲食できるため、一度は利用したことのある方も多いのではないだろうか。
これまでエンターテインメント業を中心としてきた同社だが、近年高まるテレワーク需要を受けてビジネスパーソンの利用促進に乗り出した。新型コロナウイルス感染症の拡大以降、いわば群雄割拠となっているシェアオフィス業に、なぜネットカフェを手掛ける快活CLUBが参入するのか。そして勝算はあるのか。快活フロンティアの常務取締役である中川和幸氏に話を聞いた。
-- シェアオフィス事業を取り巻く環境はどのように変化しているのでしょうか
中川氏:長期化するコロナ禍の中で、外食産業をはじめカラオケなど娯楽施設も客数が大きく落ち込みました。そうした中で、各社がビジネスを継続するための施策を模索した結果として、喫茶店やカラオケなどもテレワーク需要に対応し始めています。その結果、自宅以外の場所で仕事をする文化がビジネスパーソンに徐々に広まり始めていると感じます。
快活CLUBの場合は、コロナ前の2019年と比較して、現在のところまだ売り上げは100%まで戻っていません。コロナ禍以前は終電を逃した来店客の利用があったのですが、こうした方々はお客様の割合としてあまり多くはないものの、1回あたりの利用時間が長いので結果的にお支払いが高額になります。現在は夜遅くまでお酒を飲む機会も減っていますので、終電を逃すお客様も減りました。
快活CLUBの利用客を対象にアンケート調査をしたことがあるのですが、コロナ禍の前から当社を利用していたという客数は全体的に約10%ほど減っています。しかし、コロナ禍以降に新たに当社を利用し始めたという方が5%ほどいることが分かりました。この5%がビジネスパーソンの利用です。
また、アンケートで利用目的を聞くと、複数回答ではありますが約2割の方が「ビジネス利用」と回答しました。コミックなども楽しみながらでしょうが、少なくともお仕事のために利用している方は一定程度いらっしゃるようです。
-- 快活CLUBをビジネス目的で利用するメリットを教えてください
中川氏:まずは法人契約が不要な点です。シェアオフィスの中には法人ごとに契約が必要で、会社が契約していないと使えない場所もあります。快活CLUBは個人が会員になるだけで使えますので、利用してもらいやすいと思っています。
また、もともとネットカフェなので24時間営業している点も喜ばれています。昼だけでなく、夜間に対応が必要な作業が発生した場合でも家族などを気にせず利用できます。また、昼夜を問わず予約が不要なので、急なミーティングに対応するための需要もあるようです。
最後は店舗数のメリットです。現在快活CLUBは直営店だけでも全国に約500店舗展開していますので、出張の際に少し作業をするためにも利用できます。会員になってさえいれば全国どの店舗も利用できるのは当社の強みではないでしょうか。
-- シェアオフィス利用のために快活CLUBが変えたことはありますか?
中川氏:快活CLUBをビジネスで利用した方のために、AOKIグループでシェアオフィス事業を専門的に展開する「AOKI WORK SPACE」という事業名で領収書を発行できるようになりました。
会計の際にどちらの名前を印字するかを選択できる仕組みです。1店舗あたり1日計200人ほどが利用するのですが、そのうちの4人から5人は「AOKI WORK SPACE」と書かれた領収書を利用しているようですね。
また、最近はPCを持ち込んで作業する方向けに、従来のネットカフェに設置しているデスクトップPCを置かずにモニターだけを設置した、鍵付きブースの「Bizルーム」を開発中です。ブースの椅子をリクライニングチェアではなくゲーミングチェアに変更しました。
ブース内のモニターとお手持ちのPCやスマホを連携することで画面ミラーリングやキャストが可能なほか、Web会議などでも明るく映るように手元灯を顔の近くに配置するなど、ビジネスパーソンの利用に特化しています。
ゲーミングチェアはリクライニング機能を持つ型を導入したので、ほぼ真横になって休むこともできます。これによって昼夜を問わずビジネスパーソンの需要に対応できると思っています。
今後はこのようなブースを備えた店舗を増やしていく方針です。これまでの快活CLUBはどちらかというとロードサイドへの出店が多かったのですが、これからはテレワークや仕事帰りの需要に対応するために駅前への出店も増やしていきます。
一方で、これまではロードサイドへの出店が主でしたので、既存の店舗はご自宅の近くでも利用できるメリットを感じていただけるはずです。
加えて、情報発信の方法も少し工夫しました。私たちがどれだけ「テレワーク利用を推奨してます」と宣伝しても、利用者にはあまり届かないでしょう。そこで、実際の当社ユーザーの声を集めるようにしました。具体的には、企業サイト上でTwitterやInstagramのユーザーボイスを集計して掲載してます。他の方が快活CLUBを利用する様子を見て、コミックやゲームに限らない、ビジネスとしての当社の利用方法が口コミのように広がればと思っています。
余談ですが、鍵付きの個室は従来の仕切りだけのブース席と比較して設備投資額が6倍も高額です。天井が開いている従来のブースとは異なり、個室の場合は一部屋ごとに空調や換気設備を設置しなければならないのも、高額となる要因です。しかし、お客様のニーズとして鍵付きの個室の要望が増えていますので、当社としては引き続き、鍵付きの個室がある店舗を増やしていこうと思っています。
-- 反対にシェアオフィス業における快活CLUBの課題は何ですか?
中川氏:当社にとってハンディキャップとなるのは「快活CLUBは余暇で利用するもの」というイメージそのものです。仕事のために当店を利用しても、経費精算のための領収書を会社に提出しにくいという声があります。結果的に自費で利用する方もいらっしゃるようです。
今後の目標として、余暇の利用目的だけの施設といったイメージから脱却したいと思っています。一般の方からすると、ネットカフェは「暗い」「汚い」「ネットカフェ難民」のようなマイナスのイメージがあるようで、まずはこれを払しょくしたいですね。
具体的なイメージ変革のための取り組みとしては、先ほどもお伝えしたように、他の方が使っている様子をSNSなどで見てもらうような工夫をしています。
初めてネットカフェを利用した方からは「意外と店内が明るいんだね」といった感想も多いです。実際に当店を使用してみて、空間が明るいというだけでネットカフェのイメージが変わるようです。
多くのネットカフェでは、コミックの日焼け防止などのために窓のカーテンを閉めています。最近初めて快活CLUBを利用したという方を対象にインタビューを実施したのですが、「中が見えなかったので入りづらかった」との声が約7割ほどありました。
道路から店内を見たときにカーテンが閉まっていると、閉鎖的な空間に見えてしまうのは当然ですよね。私としては、カーテンを開けて開放的な明るい店内を目指したいです。
しかしその一方で、これまでネットカフェを利用していた方からは強い反対意見もあります。暗い店内だからこそ落ち着いて利用できていた方や、お仕事の合間に仮眠をとる方など、既存のお客様は暗い店内を好んで利用しています。たかがカーテンの開け閉めだけの問題かもしれませんが、意外と判断が難しいですね。
また、近年は、仕事と余暇のあり方が変わってきたように感じます。以前はいわゆる「9時5時」といわれるような、出勤時間と退勤時間で区切られている働き方が基本でした。しかし昨今はどこでも仕事ができる環境が整いつつありますので、自分のスタイルで成果を出せるようになっています。
そうした潮流の中で仕事と余暇をシームレスに支援できるのは、ネットカフェを手掛けている快活CLUBならではの意義だと感じます。