東北大学 未来科学技術共同研究センター(NICHe)の宮澤陽夫教授は、海産物であるホヤ(注1)が体内に持つプラズマローゲンという成分が脳神経細胞活性化効果を持つことを活用した高機能食品原体や、その徐放性食品原体の開発にめどをつけた段階に達したことを明らかにした。「この効果を持つ高機能食品の製造技術にめどをつけつつあり、日本国内の食品企業や製薬企業による事業化を図っている最中」という。
注1:ホヤは、尾索動物亜門ホヤ綱に属する海産動物の総称であり、2000種以上の種類があるといわれている。
この研究開発と事業化は、2018年度から5年計画として未来科学技術共同研究センター内で、「戦略的食品バイオ未来産業拠点の構築」プロジェクトとして始めた中の1研究開発テーマになる。そして、ホヤの成分から脳神経細胞活性化効果を持つ高機能食品原体を抽出するなどの研究開発から始まったものだ。そして、その徐放性食品原体の機能性開発を進め、そして人での機能性効果試験・安全性試験を実施し、その事業化を担う食品企業や製薬企業など数社による機能性食品の事業化を目指す段階に達した模様だ。
この研究開発と事業化は、農林水産省が実施した「『知』の集積と活用の場による研究開発モデル事業」(注2)に2018年度から2020年度に採択されたことから始まり、その後は経済産業省が2021年度から2023年度に実施している「戦略的基盤技術高度化支援事業」(通称「サポイン事業」)に採択されて研究開発・事業化が進んだものだ。
注2:農林水産省が実施した「『知』の集積と活用の場による研究開発モデル事業」の実際の実施の管理機関は、傘下の農研機構が実際の担当者になる。農研機構とは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の略称である。
水産物であるホヤから脳神経細胞活性化効果を持つプラズマローゲンを含む粉体を安定して製造する技術開発を進め、その取り出したプラズマローゲンの安全性と機能性を確認するために、「神経細胞を用いた吸収・代謝試験を行って、安全性と機能性を確認し、製品試作などを進めている」という。
この中では、プラズマローゲン成分を含む食品製品を試作し、民間企業などが機能性食品としての事業化を目指した段階に入った段階だ。現在、プラズマローゲンを含む粉体を製造する事業を進める企業数社と、そのプラズマローゲンを含む粉体を基にした食品事業を進める企業数社が商品化を目指している模様だ。「ホヤのプラズマローゲンを含む成分をアルツハイマー型ラットに経口投与した実験では、ラットの脳の脂肪酸組成に影響を与え、このラットの行動を改善した」などの研究成果が得られており、人間のアルツハイマーに関与しているアミロイドβの凝集を抑制し、分解を促進するなどと推察されている。
宮澤教授が率いる研究開発プロジェクト内では、このほかに「納豆菌などが持つ1-デオキシノジリマイシンという成分が示すグルコシターゼ阻害作用を利用した糖尿病予防効果を持つ機能性食品の開発も、食品企業の数社とも進めている」という。「この1-デオキシノジリマイシンという成分を対象生産する納豆菌の同定に成功し、この機能を持つ機能性食品の事業化を、食品企業や製薬企業などと進め始めている」と説明する。
「戦略的食品バイオ未来産業拠点の構築」プロジェクト内で生まれた特許などの知的財産は、東北大のTLO(知的財産移転企業)である東北テクノアーチ(仙台市)によって、権利化し、移転先の企業との交渉を任せている」という。この東北テクノアーチは、未来科学技術共同研究センターーが入居している同じ建屋内で、企業活動をしているために、「密接に相談・打ち合わせを行ってきた」という。