TD SYNNEXはこのほど、都内で「TD SYNNEX Inspire Japan 2022 Tokyo」を開催。本稿では「TD SYNNEXが目指すソリューションアグリゲーターとは?アジアパシフィックと日本のビジネス戦略について」と題した特別講演を紹介する。
2社が合併し、世界有数のディストリビューターの1社に
PCを中心としたハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービス、モバイル関連サービスの卸売り販売を手がけるTD SYNNEXは、昨年にSYNNEXとTech Dataが統合して設立された。
冒頭、登壇したTD SYNNEX Corporation President, Asia Pacific & JapanのJaideep Malhotra氏は「統合により、世界最大級のディストリビューターとなりました。人材、テクノロジー、パートナーシップに対して積極的に投資し、エコシステムを形成しています。日本は重要な市場であり、グローバルの力を活用しながら支援します」と語った。
同社におけるグローバル戦略は、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)、メタバースをはじめとした「成長分野への投資」に加え、「デジタル変革」、オールインワンでIT予算を最適化するTaaS(Tech-as-a-Service)などによる「ポートフォリオの強化」、地域拡大やオペレーションを最適化する「領域の拡大」の4つを軸に据えている。
こうした戦略をふまえ、Malhotra氏は「当社は地域密着型のパートナーです。ITエコシステムの成長を促進させ、複雑なものをシンプルにしています。合理的にスケールできるGo-to-Marketを持ち、関心を持つ日本の企業も多いですが、当社としてはグローバルのマインドセットと和の心で日本市場に向き合います」と強調した。
また、同氏は「単一ベンダー、パートナーだけでは限界があることから、エコシステムは重要。当社は複雑性を低減し、信頼性を担保したアドバイスを行います。ポートフォリオとフットプリントを強化し、将来に向けた投資を拡大していきます」と展望を口にしていた。
日本での60年間の変遷
続いて、日本法人のTD SYNNEEX 代表取締役社長の國持重隆氏が登場し、今後1年間の日本における取り組みについて説明した。
はじめに、同氏は日本市場におけるビジネスの変遷に関して触れた。同社の前身である関東電子機器販売は1962年に設立し、その後は社名変更を経て、2001年にコンピュータウェーブと合併、事業拡大により、丸紅インフォテックに社名変更した。
2010年に米SYNNEXグループの参画でシネックスインフォテックに社名変更。2013年に商品検索、見積・発注システム「ECNex」、2017年にクラウド製品・サービス提供ポータルサイト「CLOUDSolv」をそれぞれ運用開始し、冒頭でも触れたように合併に伴い2022年から社名がTD SYNNEXとなった。
國持氏はこれまで60年間、日本でビジネスを展開してきた経緯を踏まえつつ「次の60年に向けて、グローバルディストリビューターとしての役割を果たしていく。そのためには、グローバルのITエコシステムと日本のIT市場のつなぎ役になるとともに、日本のIT市場でのプレゼンスを向上させる必要があります」との認識を示した。
グローバルと日本をつなぐ“ソリューションアグリゲータ―”
グローバルと日本のつなぎ役として、同社はソリューションアグリゲーター、Maihotra氏も言及したグローバルのマインドセットと和の心、グローバルプログラム/プラットフォームの3点を挙げる。プレゼンスの向上では、事業領域別組織への改編(ビジネスユニット化)、ポートフォリオの拡大、そして人的投資と拠点戦略の見直しに取り組む。
従来は1つのソリューションで1つの課題を解決することが当たり前だった。しかし、今となってはITの市場や課題は複雑かつ多様化していることから、組み合わせたソリューションでなければ、なかなか解決できないという状況になっている。
そのような状況にベンダーや販売店が直面しているにもかかわらず、ディストリビューターがそれを無視して単に製品を届けるだけでは十分ではないという。
このため、ディストリビューターも複数の製品・サービスを組み合わせて、どのように伝えるのかということをともに考える力を持たなければならないと指摘。
國持氏は「その力というのは複数の製品・サービスを組み合わせた提案や解決に向けて支援する“オーケストレーション(調整)力”だと考えています。オーケストレーション力を集め、ひいては持っていることが重要です」と述べた。
つまり、同氏が話すオーケストレーション力を持つことがソリューションアグリゲータ―というわけだ。
TD SYNNEXは、立場的にグローバルにおける成功事例やプログラムを、日本に持ち込むことが使命だと考えてはいるものの、そのまま持ち込むと日本市場での展開は難しい側面があると指摘する。
そうした課題に対して、同氏は「そのまま持ち込むことができていれば、販売店やディストリビューターなどのビジネスが拡大していたはずです。こうしたことができないのは、日本の商習慣や慣習です。商習慣や慣習を尊重しつつ、どのようにグローバルのプログラム・プラットフォームが日本で受け入れられるのか、を考えることが重要です」と話した。
國持氏によると、考え方はグローバルであるものの、日本の市場を向くということが重要であり、これがないと単に海外のプログラムをそのまま持ち込み、使える人だけ使うという状況になってしまうため、オーケストレーションをかけていくという。
グローバルプログラム・プラットフォームを準備
このような状況をふまえ、同社はグローバルプログラム・プラットフォームの準備を進めている。ここで、9月に発表した「Center of Excellence」や「SERVICESolv」などが紹介された。
Center of Excellenceは、グローバルのITノウハウを蓄積したプラットフォームとして機能し、各領域に特化したソリューションの仮想環境におけるデモの実施から実環境への移行、セールストレーニングまでを単一のプラットフォームで提供するというもの。
クラウド、セキュリティ、アナリティクス、ハイブリッドクラウド、データセンターモダナイゼーション、DevOpsの各領域において取扱いメーカーのネットワーク、ソリューションを活用し、同社のエンジニアチームが販売パートナーの課題を解決するとしている。
検証済みのソリューションをClick to Runですぐに開始でき、クラウドソリューションにフォーカスしたリセラー向けポータルサイトでグローバル展開している「StreamOne Stellr」上で提供を予定している。
さらに、導入から展開、運用、処分までのサービスライフサイクル全体に向けたサービスであるSERVICESolvは、各メニューのトータルサポートに加え、展開のみ、処分のみなどの個別対応、メニューの組み合わせに対応している。
現状ではPCクライアント、サーバ/ストレージ、ネットワークセキュリティ、クラウド/ハイブリッド、サポートの5つの分野でソリューションを提供している。
日本での存在感を高める施策
一方、プレゼンスの向上にあたり、同社では組織変更を予定。従来は営業部や製品部など機能別の組織としていたが、これを今年12月から事業領域別に4つのビジネスユニットに再編するという。
背景について國持氏は「事業領域別の組織に変更する理由としては明確にどのような領域に対して、どのソリューションを届けるかということに加え、そのような施策の中で当社としていかに力を付けるか、ということを意識しているかです」と、再編に意欲を見せている。
そして、ポートフォリオの拡大についてはマルチクラウド、セキュリティ/ネットワーク、サーバ/ストレージ、アナリティクス/データの各領域のラインアップに、「HPE GreenLake」など、SaaS系のソリューションとサービスを拡充している。
人的投資と拠点戦略の見直しでは、2023年に70人規模の増員(現時点の従業員数は約700人)を予定。現在は東京本社を中心に3つの貸しオフィスで営業しているが、今後は東京本社の見直しを含めて数年かけて拠点整備に取り組む考えだ。
講演の最後に、國持氏は「TD SYNNEXとして、今日の話をベースにパートナーのみなさんとビジネスを拡大し、グローバルディストリビューターとしての頑張りの形を具体的にしていく1年にできればと考えています」と締めくくった。