東京大学(東大)は11月12日、ラットの身体の動きと神経活動を計測し、音楽に同期する「ビート同期」を検証した結果、ラットもヒトと同じ120~140BPM(ビート/分)の音楽でビートに合わせて身体を動かすことを発見したと発表した。

同成果は、東大大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻の伊藤圭基大学院生(研究当時)、同・白松知世助教、同・石田直輝大学院生、同・大島果林大学院生、同・眞神花帆技術補佐員(研究当時)、同・高橋宏知准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

ヒトは、音楽に対して自然に身体を動かす「ビート同期」運動を示し、中でも120~140BPMのテンポの音楽で最も顕著になることが知られているが、ヒト以外の動物がビート同期を示すテンポについてはわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、ラットの身体の動きと神経活動を計測し、そのビート同期を検証することにしたとする。

実験に先立ち、ビート同期のメカニズムとして、「身体原因説」と「脳原因説」という2つの仮説が立てられた。身体原因説は、身体特性がビート同期を決めるという考えで、その有力な根拠としては、最もビート同期が顕著になるテンポと、約120歩というヒトの1分間の歩数がほぼ一致している点が挙げられるという。この説が正しかった場合、小動物はヒトと比べて速いテンポで歩行することから、速いテンポの音楽にビート同期しやすくなる可能性があると考えられたという。

一方の脳原因説は、脳のダイナミクス(動特性)がビート同期を決めるという考えで、脳のダイナミクスは小動物もヒトも共通のため、この説が正しい場合は、小動物もヒトと同じテンポの音楽でビート同期しやすいことが予想されるとする。

実験は、ラットの頭部に無線加速度計を取り付け、音楽提示中の頭部運動の計測が精密に行われた。そして音楽には、モーツァルト作曲「2台のピアノのためのソナタニ長調K.448(375a)」(132BPM)が用いられた。その結果、約半数のラットでビート同期運動が観察されたという。また二足で立つ姿勢では、同運動は視認できるほど大きくなったとする。

さらに今回は、ヒトの被験者でもビート同期運動が調べられ、ラットとの比較が行われた。その結果、どちらも速いテンポでは同運動が小さくなることが確認されたほか、楽曲中の同運動の変化も似ていることが判明。これらの結果から脳原因説が強く支持され、同時にラットもヒトと同じ脳内メカニズムで音楽ビートを処理していることが示唆されたという。