新型コロナで働き方が大きく変わり、労働者の仕事への意識も変化した。米国ではコロナ禍に入って増加していた労働生産性が、2022年に入り落ちているという。何が起こっているのか?Computerworldの記事「Are in-office mandates killing productivity?」でLucas Mearian氏がレポートしている。
リモートワークか出社かーー新型コロナでオフィスワーカーが一気にリモートになった米国で、ホットなトピックだ。最新の動きは、Twitterを手に入れたElon Musk氏の出社義務付け(大規模な人員カットはもちろんのこと)だが、Apple、Googleなどの動きも注目されている。
そんな折、米労働省労働統計局 (BLS)が2022年第3四半期(7月ー9月期)の生産性についてのデータを公開した。その内容は専門家にも単純には結論が出ないもののようだ。
まずはデータから。企業の生産性は前四半期(2022年4月ー6月期)から0.3%増と微増、労働者のアウトプットは同2.8%増加した。2021年の同時期と比較すると、生産性は1.4%減少した。前年同期からの減少は3四半期連続となる。9カ月続けて前年比で生産性がマイナスとなるのは実に1982年以来のことだという。40年ぶりだ。
何が起こっているのか。1つに、以前紹介した"Quiet Quitting"(静かな退職)がありそうだ。Quiet Quittingとは本当に会社を辞めるのではなく、以前のように自分の業績を上げようと奮闘するのではなく、最低限の業務をこなすという考え方。特に若い世代で見られると言われている。
Computerworldの記事ではさまざまな専門家の意見から、オフィス回帰、ストレスと2つが労働者にどのような影響を与えるのか、専門家の声をレポートしている。
米国の調査では、90%の企業が2023年に部分的にでも出社することを求める計画だという。そのうち20%は、従わない場合は解雇もありうるとしているそうだ。
Gartnerの人事リサーチアナリストのCaroline Walsh氏は、「2022年初め、とっさの反応が取られていた。CEOや幹部が業務が進んでいないという不安があったが、実際のところそのようなことはなかった。そこに、企業が出社を求めるようになった」と述べる。生産性が急低下した理由は明確になっておらず、雇用主も経済学者もポリシーを下す前によく調べるべきだとコメントしている。
Walsh氏は、出社を求めるときに理由を説明していないという点も指摘しているそうだ。これが従業員とのエンゲージや従業員のやる気に悪い影響を与えているとみる。特に、リモートからでも働くことができることを示した社員は、ネガティブな感情を抱いていると続けている。
このようなストレス、不安は少しずつ積み上がってきたものだ。これに、不安定かつ不明確な経済動向が加わる。人手不足のまま業務を進めている場合、従業員は以前よりも多くの作業を求められている。過去1年、毎月400万人以上が退職したが、ITに限って見ると今年に入ってこれまで20万人しか増加していないという。
「(新型コロナになってから)最初の2年は"アドレナリン"でなんとかなっていた。だが、追加の業務が増え、従業員の危機感は頂点に達している。アドレナリンや善意だけではもはや従業員を鼓舞できない」とWalsh氏はコメントする。
適切なターゲットや指揮が必要という声もある。経営コンサルタントを営むVictor Janulaitis氏は、特に若い世代やテック業界に顕著としながら、「指揮を必要とする業務をこなしている人は多い。新しいハイブリッドワークにおいて、社員は自分でやらなければならず、指標や目標も限定的な状態」と述べている。
BLSのデータでは、2022年第2四半期、ビジネスセクターの労働生産性は4.1%下がり、製品とサービスのアウトプットは1.4%下がった。一方で労働時間は2.7%増えているという。コロナ真っ只中の2021年は、第1四半期の労働生産性は4.2%増加、第4四半期も6.6%伸び、アウトプットは9.1%増加していた。
日本の生産性については、11月に公益財団法人 日本生産性本部が2021年度の時間あたりの名目労働生産性は4950円と発表、実質ベースの上昇率は2年ぶりに増加に転じた(前年度比1.2%増)と報告している。一人当たりの名目労働生産性は808万円、こちらは3年連続低下していた状態から回復したそうだ。
リモートか出社か、ポストコロナのマネジメントはどうあるべきか、世界の経営陣は答えのないまま試行錯誤するしかなさそうだ。