仁科記念財団(小林誠理事長)は10日、物理学の分野で優れた業績を上げた研究者を顕彰する今年の仁科記念賞を、電子の回転で生じる「スピン流」の研究を発展させた東京大学大学院工学系研究科教授の齊藤英治氏(50)と、初期宇宙が急膨張したとする「インフレーション理論」の検証に貢献したドイツ・マックスプランク宇宙物理学研究所長の小松英一郎氏(48)に授与すると発表した。授賞式は12月6日に東京都内で開き、両氏にそれぞれ賞状、賞牌と賞金60万円を贈る。
齊藤氏の授賞理由は「スピン流物理学の開拓」。
スピン流とは、電子のスピンの方向が変化して隣の電子に伝わる電子の流れを指す。例えば上向きのスピンを持った電子が右に、下向きの電子が左にそれぞれ動いた時、右から左にスピン流が生じたとされる。
現代の電子情報処理デバイスは電荷の流れである電流によって駆動する。スピン流はエネルギーの損失を抑制でき、かつ量子情報を担うことも可能。次世代省エネルギー電子情報技術の担い手として注目を集めている。
同財団によると、同氏はこのスピン流と垂直な方向に電圧が発生する「逆スピンホール効果」という現象を2006年に発見。スピン流の直接的な検出、測定方法を可能にした。この成果により、その後のスピン流物理学の発展の礎を築いた。
小松氏の授賞理由は「宇宙背景放射を用いた標準宇宙論への貢献」。
現在のビッグバン宇宙論では、宇宙は約138億年前に「ビッグバン」と呼ばれる超高温、超高圧の大爆発で始まったと考えられている。そして「インフレーション」と呼ばれる急激な加速膨張が起きたとされている。
同財団によると、同氏はビッグバンの名残とされ、宇宙のあらゆる方向から降り注ぐ電磁波「宇宙マイクロ波背景放射」の観測データを利用して、インフレーション理論を検証。同理論を支持する成果を上げて、現在の標準的な宇宙論の確立に貢献した。
仁科記念賞は、原子物理学者の故仁科芳雄博士(1890~1951)の功績を記念して1955年に創設された。これまで同賞を受賞した江崎玲於奈、小柴昌俊、小林誠、益川敏英、中村修二、梶田隆章の6氏がノーベル物理学賞を受賞している。
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