ガートナージャパンは10月31日~11月2日、年次カンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo 2022」を開催した。海外アナリストも多数来日した同カンファレンスでは、各分野のエキスパートが調査結果を基に、これからのテクノロジーの主要領域や日本企業が押さえておくべきトレンドについて解説する講演が多数実施された。その中から本稿では、11月2日に行われたシグニチャ・シリーズ講演「CEOサーベイから見えた 2022~2023年に CIOが取るべきアクション」(講師:同社ディスティングイッシュト バイス プレジデント、アドバイザリ 松本良之氏)の内容をレポートする。

2022年のCEOサーベイから見られる変化

松本氏は2022年にインフレや地政学上の問題など不測の事態が多々起きたことを挙げ、今CEOが目にしているのは「反転し、方向感覚が失われた世界」だと講演を切り出した。同年にガートナーが実施したCEOサーベイでは、前年以前と同様「成長」が企業経営の最優先課題ではあるものの、その度合いが下がってきていると言い、同氏は「(成長の)重要度は大幅に低下したと思っている」と見解を示す。

今回のCEOサーベイで松本氏が注目したのは「従業員」の優先順位の上昇だ。これまでそれほど重視されていなかった「従業員」が、今回の調査では第2位にランクインしている。また、グローバル化は続いているが、主要国間のパワーシフトにより、変化している「再グローバル化」や、「環境のサステナビリティ」を重視する傾向も見えたという。従来調査結果に上がってこなかった「インフレのための管理」という項目を優先課題に挙げるCEOも増加した。このような変化から松本氏は「かつて経験したことのない異例の事態が増える中、CEOはかじ取りをしなければならない状況に置かれている」と説明する。だが、迅速に的確な判断ができているCEOは決して多くはないのが実情だ。

「分からないことだらけで、確信が持てないので、CEOのアクションは鈍くなっているのです」(松本氏)

ではこのような状況下でCIOは何をすべきなのか。同氏はガートナーの見解として「CEOが迅速に決断できるように支援することがCIOの成功」であるという考えを基に、今CEOが求めているのは「CIOからの、先を見越したテクノロジー関連のビジネスアイデアや知見だ」と語る。

CIOが注力すべき3つの重点領域

これらの調査結果から、ガートナーではCIOが注力すべき3つの重点領域を以下に設定している。

・アナリティクスの役割を増幅させる ・デジタル化の方向性を変える ・人/資源をローテーションする

以降では、それぞれの領域について順に見ていこう。

  • CIOが注力すべき3つの重点領域/出典:ガートナー(2022年11月)

アナリティクスの役割を増幅させる

CIOはまず、先述したような異例の事態をより深く診断し、かつてないレベルのデータ分析を行うことが必要になる。松本氏は同社が行った過去のCEOサーベイの調査結果から、「情報が多過ぎる」と回答するCEOの割合を示し、「過去10年間でCEOのデータに対する見方はそれほど前進していない」と説明。その上で、「CIOがデータ分析のオーナーシップを取っていく時期が来た」と見解を示した。

例えば、商品の値上げを考えてみよう。価格更新の頻度はどうするのか、セグメント別に弾力性はどのように異なるか、値上げが効果を失うのはいつか。これらを判断するに当たり、従来のような“ビジネスの勘”は通用しない。より精緻なデータ分析が可能なCIOが「AIとデータサイエンスで示す」ことが必要になってくるのだ。

デジタル化の方向性を変える

この点について松本氏によれば、ガートナーでは、売上増のためのデジタル化の取り組みを縮小し、オペレーションモデルのデジタル化に注力すべきだと提案しているという。同社のCEOサーベイでも、「CEOがデジタル化をバランス良く行おうと考えていることが分かる」(松本氏)といい、リソースの配分を販促から生産性向上へ、カスタマー・エクスペリエンスからトータル・エクスペリエンスへと動かしている事例を紹介した。

人/資源をローテーションする

「人/資源をローテーションする」とは、人材のローテーションと再トレーニング、サーキュラー・エコノミーへの関与、事業活動場所の循環を支援することを指す。

ガートナーの調査では、大半のCEOが人材不足を企業にとっての危機だと捉えていることも明らかになっている。その解消のためには、人材のローテーションと再トレーニングが欠かせない。ここでポイントとなるのが、マシン(システム)と人間のローテーションである。松本氏はマシンを使うことにより雑務の時間を減らし、それを従業員の勉強時間に当てることで、組織全体を強くすることが必要だと語る。

次に重要なのがサーキュラー・エコノミーへの取り組みだ。CIOはこの領域において、廃棄物をよみがえらせたり、再利用物質を使用したりできる環境や仕組みの整備を提案することで、CEOの優先課題の解決をサポートできると松本氏は強調する。

最後は「事業の活用場所の循環に貢献する」こと。CEOサーベイではこの10年で「グローバル化したサプライチェーンは危険なまでに複雑化し、もろくなった」と回答したCEOが倍増しているという。松本氏は、こうしたCEOの懸念を払拭すること、すなわち安全で信頼できる販売/供給/オペレーションの地域を示す新しい地政学的地図の作成を支援することこそ、CIOが行えるアクションだと語った。

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講演の最後に松本氏は改めて、CIOが注力すべき3つの重点領域を挙げ、今後CIOがすべきこととして、2022年に“反転”してしまった世界を正すサポートを行うことだと強調。「CEOが2023年以降に進むべき道を見つけられるよう支援していきましょう」と、聴講者に語り掛け、講演を締めくくった。