大阪大学(阪大)は、帝人ファーマと共同開発した「反復経頭蓋磁気刺激」(rTMS)機器を用いた、脳の両側前頭前野に対する高頻度刺激を4週間施行することで、軽~中症程度のアルツハイマー型認知症(アルツハイマー)が、偽刺激に対して有意な改善が認められ、その効果は約20週継続することを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院 医学系研究科の齋藤洋一特任教授(現・同大学大学院 基礎工学研究科 特任教授)らの研究チームによるもの。詳細は、中枢神経系の老化と加齢に伴う神経疾患のメカニズムに関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Aging Neuroscience」に掲載された。

rTMSは、非侵襲的に大脳皮質を刺激することが可能で、さまざまな神経疾患において研究が進んでいる。日本においては、2019年にうつ病に対する米国製機器が保険適用となっている。しかしアルツハイマーに関しては、海外においても検証試験として有効性が示されていなかったという。そこで研究チームは今回、rTMS機器を用いて、日本人のアルツハイマーの改善について、探索的研究を行うことにしたとする。

在宅用rTMS機器開発を目指して、臨床研究用に阪大と帝人ファーマで共同開発した未承認医療機器を用いて探索的臨床試験が行われた。両側前頭前野に対し、10Hz計1200発(刺激強度:120%、90%安静運動しきい値および偽刺激)を4週間にわたって施行するという内容だという。

  • 在宅用rTMS機器開発を目指し、阪大と帝人ファーマによって臨床研究用に共同開発された未承認医療機器のイメージ

    (左)在宅用rTMS機器開発を目指し、阪大と帝人ファーマによって臨床研究用に共同開発された未承認医療機器のイメージ。今回の研究で使用された。(右)研究チームが開発した偏心球面コイル。エネルギー効率の改善が施された (出所:阪大Webサイト)

すると、重症度も簡易的に判断可能な、認知症のスクリーニング検査「ミニメンタルステート」(MMSE)で10~25点の全患者対象では、有意な有効性が示されなかったという。しかしMMSE15点以上の患者に限ると偽刺激に対し、120%群は4週後に有意な「アルツハイマー病評価尺度-認知行動-日本版」(ADAS-cog)スコアの改善が示されたとした。

具体的にはADAS-cog3点以上の改善が認められた症例が、120%群では5/12例(41.7%)、90%群では3/10例(30%)、偽刺激では0/9例であり、120%群は偽刺激に対して有意な改善が認められたとする。その効果は、約20週継続することも確認された。

また、「日本語版モントリオール認知機能検査(MoCA-J)」、MMSEにおいても同様の傾向が示されたとする。日本人と欧米人とは、頭部形状などが異なることから、今回、日本人におけるrTMSの有効性が示されたことは特筆に値すると研究チームでは説明する。

日本発のアルツハイマー薬で、すでに保険適用されている「ドネペジル」の治験データによれば、内服12週後から有意なADAS-cogの改善(偽薬に対して平均2.54点の差)が認められているとする。今回のrTMSによる改善は、介入直後の4週後から認められており、その後、20週まで継続していることから、ドネペジルよりも即効性があり、3~4か月ごとに繰り返すことで、治療できることが考えられるとしている。