新型コロナウイルスの感染拡大は収まりそうに見えながらも、現在も継続しています。そのため、オフィス出社への全面回帰を検討していた企業も、中長期的にハイブリッドワーク(複合的な働き方)を確立させるにはどうすべきかと危機感を募らせているのではないでしょうか。

本稿では、有意義な人と人とのつながり、コラボレーションの公平性を推進するグローバルコミュニケーションカンパニーであるPolyが、企業が直面する「ハイブリッドワークのジレンマ」についてひも解きます。前編は、従業員のウェルビーイングと、「いつでもどこでも働ける環境」の両立について解説していきます。

今年中には労働人口の約半数がハイブリッドワークへ移行

まずは、ハイブリッドワークがどの程度、浸透しているのかどうかを調査結果から明らかにしましょう。

Microsoftが2022年3月下旬に31カ国3万1,000人に実施した調査によると、すでに労働人口の38%がハイブリッドワーカーであり(2021年比で7ポイント増加)、今年中に53%がハイブリッドワークへの移行を検討する可能性があるそうです。

また、Polyのグローバル・セグメンテーション・リサーチ2021では、在宅勤務やコワーキングスペースの利用の増加など、勤務時間・勤務地の選択がより柔軟になっているという結果が出ています。

日本においても、新型コロナウイルスの影響で、人々は外出や他社との接触を避ける必要に迫られました。その結果として、多くの企業がテレワークを始めた一方、従業員へオフィスに戻ってきてほしいと考えている企業がいるのも事実です。

そのジレンマの解決策として、オフィスに出社して働く「オフィスワーク」と、自宅やコワーキングスペースで働く「テレワーク」を組み合わせたハイブリッドワークが普及しました。新型コロナの感染拡大は企業や従業員が働き方について考えるきっかけになり、「オフィスは出社するもの」という考え方は取り除かれ、仕事とはどこで働くではなく、何をするかが重要視されるようになりました。

オフィス回帰か、従業員に選択肢を与えるか

ハイブリッドワークに対して、大企業の見解と対応はさまざまです。大手金融機関や法律関係、また、どの業界においても経営者の考え方や職種上の制限で「オフィス回帰」の意志を示している企業はあり、すでにフルタイムでオフィス出社することを義務付けているケースもあります。これは国内の企業のみならず、日本でオフィスを構える外資系企業も同様です。

こうした企業が「オフィス回帰」を選ぶ背景として、リモートワークが組織文化、社員の生産性、社員同士のコラボレーション、社員のスキルアップなどに与える影響を懸念していることがクローズアップされています。特に対面による指導や研修を取り戻したいと考えている話はよく耳にします。

一方、オフィスに居なければならない制限が少ない職種が多い企業で、経営者がリモートワークに寛容な企業では、ある程度自由な働き方を選択できる傾向にあるようです。こうした企業では、社員の自律性をある一定レベルで尊重し、社員間のコラボレーションに関しても対面でない手段で解決しようと取り組んでいます。つまり、企業が社員や組織が成果を出すために、必要な「選択肢を調査および検討し、そして提供(実行)している」のです。

また、上記で示したように同じ会社でも職種上の制限や傾向があるので、同じ会社で「オフィス回帰」「自由な働き方の選択肢の提供」のどちらか一方に統一する必要はないと思いますし、実際にそのような企業も多くあります。もちろんこれら極端な2種類の働き方でなく、さまざまな働き方を組み合わせて生産性の最大化を目指すことが、経営者にとっても社員にとっても大事だと思います。

オフィス内のメンバーとオフィス外のメンバーの平等性の確立を

上記の複合的な働き方を実施する際は、オフィス内のメンバーとオフィス以外に分散したメンバーで、どれだけこれまでの高生産性を維持できるかが焦点になります。

あわせて、メンバーいる物理的空間が同一ではないことの弊害となり得る、接続性、即答性、俊敏性、回復力などを、同一の物理的空間にいる時と変わらないように維持し、また個々人の存在感や発言機会を維持することも重要となります。

「同じ物理的空間にいないことによる閉塞感や疎外感を取り除き、平等性をいかに維持するか」というと、難しいように聞こえますが、こちらが真のハイブリッドワークを実現するためのキーとなるでしょう。

また、オフィス以外で働く場合、在宅ではなく他の場所(ワークプレイス)を選択するケースも出てきます。こちらは場所に対する弊害(雑空間の大小、雑音など)にも対応が必要になってきます。

適切なハイブリッドワークを導入することで、VUCA(※)の時代でも高いアジリティ(敏捷性)とレジリエンス(回復力)を得ることができるでしょう。また、人材採用と定着にも大きな効果があるはずです。

※ VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスの未来の予測が難しくなる状況のこと

いつでもどこでも働ける環境と「つながりすぎ」「環境品質」問題

コロナ禍に入った当初、企業は従業員の心身の健康をサポートすることに大きな関心を寄せていました。ところが、ギャラップ社が1万5,000人の米国のビジネスパーソンに調査したところ、2年半経った今では、ウェルビーイング(精神的にも肉体的にも、社会的にも健康が満たされた状態)に対する企業の意識は、過去10年間で最も低い割合まで低下しているようです。

新型コロナが登場する前、企業や機関は、会議室同士のコミュニケーション環境を中心に整備してきました。しかしコロナ禍を経て、想定外に社員一人ひとりにまで拡張されたコミュニケーション環境下で、フレックスタイムやワーク・ライフ・バランスの改善を通じて、従業員のウェルビーイングを守り、支援してきました。

一方で、労働時間とプライベートタイムの「境目」は曖昧になりがちです。デジタルツールでエンドレスにつながることが可能になり、従業員が「常にオン」であるかのような状態になってしまいました。

Polyの調査によると、49%の組織が従業員に「つながらない権利」を選択する措置を取っていないことがわかりました。回答者のほぼ半数が、“単純な”ハイブリッドワークに移行したおかげで、働き過ぎるカルチャーが生まれたとコメントしています。

また、Microsoft Teamsのデータから、パンデミック前に比べてオンラインミーティングに費やす時間が252%も増えたことがわかりました。いつでもどこでも働けるがゆえに「常にオン」の状態に陥ってしまうため、働きやすさと、従業員のウェルビーイングを両立させる必要があります。

オンラインミーティングの増加は、労働時間を増やしたことにとどまらず、環境弊害にも及んでいます。これまでオフィスでの対面ではあまり問題にならなかった雑音(家族、ペット、その他カフェであれば周囲の雑音)、音声の品質問題(音が割れる、聞き取り辛いなど)、身体的負担(長時間のヘッドセット利用による頭痛、その他)が発生しています。

物理的な快適さと心理的な快適さをどう両立させるのか {#ID5} コロナ禍でオフィス出社を再開させるために、多くの企業は新しい換気システムや、パーテーション、ソーシャルディスタンスを取るための掲示などを行い、オフィスに戻る従業員の「オフィスの物理的な」快適さを追求してきました。

しかし、エンゲージメントや信頼関係、アイデンティティ、オフィス内外含めた平等性など、「心理的な」快適さの提供に未着手の企業は少ないでしょう。特に平等性は心理的な側面だけでなく、個々人のモチベーションや企業の生産性にも大きく影響するものです。

組織は、従業員の環境的及び心理的な快適さを守る必要性に迫られています。ハイブリッドワークが発展するにつれ、従業員のウェルビーイングにまつわる注目はますます高まるでしょう。組織は、従業員の環境的及び心理的な快適さを守る必要性に迫られています。そのような時は、身近にあるテクノロジーを活用することを検討されても良いかもしれません。

著者プロフィール

野村宜伸(Poly日本法人 代表執行役社長)


日本市場のビジネス成長と製品シェア拡大の責任者として、日本の顧客やパートナー企業 にワールドクラスのソリューションとサービスを提供するチームを牽引。2021 年 9月にPolyへ入社。
Poly 以前は、UC 業界で 20 年以上の実績を持つ。直近では、Logicool 社で法人事業本部長を務める。それ以前は、日本マイクロソフト社で UC 事業のコンサルティングやセールス、また NTT のグループ企業でクラウド コミュニケーション サービスを提供する NTT Cloud Communications社のバイス プレジデントなどを歴任。