信州大学(信大)は10月14日、全国の診療データベース「NDB」を用いて、日本における「注意欠如・多動症(ADHD)」の新規診断数の調査を実施した結果、その年間発生率は、2010~2019年度の間に0~6歳の子供で2.7倍、7~19歳で2.5倍、20歳以上の大人で21.1倍に増加したことを明らかにし、中でも2012~2017年度にかけて成人での発生率の増加が最も顕著だったと発表した。

同成果は、信大 医学部 子供のこころの発達医学教室・精神医学教室の篠山大明准教授、同・本田秀夫教授らの研究チームによるもの。詳細は、臨床ケアやヘルスケアなどを含む医療に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「JAMA Network Open」に掲載された。

ADHDは子供で頻度が高い神経発達症の1つであり、半数近くは成人後も診断が持続するとされる。しかし、大人の障害としての認知度が不十分であるため、しばしば過少診断されることがあるという。そこで研究チームは今回、日本におけるADHD診断の実態を調査するため、全国の医療データを集約したNDBを用いて、子供と大人のADHDの全国的な新規診断数の調査を行うことにしたという。

その結果、2009~2019年度に新たにADHDと診断された人の性別と診断時の年齢グループをNDBから抽出し、2010~2019年度の各年度について、ADHDの新規診断数を対象の年齢グループの総人口で割ることによって、各年度の発生率が計算された。

その結果、2010~2019年度に83万8265名が日本でADHDと新規に診断されたことが判明。0~6歳の子供では女児2万3292名、男児9万7986名、7~19歳では女性9万1891名、男性28万9862名、20歳以上では女性16万239名、男性17万4995名だったという。

ADHDの年間発生率は、2010~2019年度の間に0~6歳の子供で2.7倍(女児2.9倍、男児2.7倍)、7~19歳で2.5倍(女性3.7倍、男性2.2倍)、20歳以上で21.1倍(女性22.3倍、男性20.0倍)に増加していた。特に、2012~2017年度にかけての大人におけるADHDの発生率の増加が最も顕著で、2018年度にピークだったことが明らかにされた。

  • 日本におけるADHD診断の増加

    日本におけるADHD診断の増加 (出所:信大Webサイト)

今回の研究により、日本においてADHDの診断率が増加していることが報告され、特に成人での増加が確認されたが、その理由として研究チームでは、大人のADHDに関する認知度の高まりが影響していることが考えられるとしている。日本において2012年にADHD治療薬が大人への使用に向けて承認されたことも、大人のADHDに関する認知度が高まったことに貢献したと推測されるが、今回の研究では増加の要因については調査していないため、今後の研究で検討する必要があるとしている。

なお、ADHDの頻度の変化を正確に捉えることは、有効な支援体制を実現するためにも、ADHDの危険因子や病因を研究する上でも重要なことだと研究チームでは説明しており、今後も、ADHDの発生率の動向調査を引き続き行う予定としている。