SPACE WALKERは9月28日、東京理科大学・野田キャンパスにて「第5期 事業報告会」を開催した。大学発スタートアップの同社は現在、科学実験、小型衛星打ち上げ、宇宙旅行をターゲットとしたスペースプレーンを開発中だ。登壇した米本浩一CTOからは、最新のロードマップが明らかにされた。

  • スペースプレーンのモックアップ。スケールは揃っていないのだが、左が旧形状で右が新形状

    スペースプレーンのモックアップ。スケールは揃っていないのだが、左が旧形状で右が新形状

初の宇宙空間到達は2027年に

同社のスペースプレーンはサブオービタル機で、科学実験用の「風神」、小型衛星打ち上げ用の「雷神」、宇宙旅行用の「長友」という3タイプがある。以前の計画から大きく変わったのは、この3タイプの設計を共通化したということだ。

  • SPACE WALKERの米本浩一CTO

    SPACE WALKERの米本浩一CTO。東京理科大学の教授でもある

当初は、風神→雷神→長友と、機体を3段階で開発する計画だった。まず、全長9.5m/重量6.3tの風神で宇宙空間への到達を実現。次に、全長14m/重量30.2tに大型化した雷神を開発し、100㎏の小型衛星を打ち上げる。そして、有人仕様にした全長16m/重量18.7tの長友により、宇宙旅行に乗り出す、というプランだ。

それに対し、新しい計画では、機体の形状やサイズを共通化する。これにより、風神/雷神の打ち上げは2027年、長友の打ち上げは2029年の予定となった。

  • 現在の開発ロードマップ

    現在の開発ロードマップ。風神/雷神はどちらも2027年の打ち上げとなった (C)SPACE WALKER

従来の3段階開発は、最も低コストな小型機から始め、ステップアップしていくという手堅い手法ではあったが、3種類の機体を設計してテストすることを短期間で繰り返すのは、スタートアップには負担が大きい。設計を一本化すればリソースを集中でき、トータルの開発コストも大幅に圧縮できるという。

新設計の機体は、全長が17.5m、翼幅が12.9mとなる。旧設計の長友と比べると、先端が少しシャープになり、翼が大きくなった印象を受ける。エンジンの数は、風神/雷神が7基で、長友は5基。打ち上げ時の重量はそれぞれ異なり、風神は47.5t、雷神は54t、長友は36.2tになる。

  • 新設計の仕様。形状・サイズを共通化し、各機体でカスタマイズする

    新設計の仕様。形状・サイズを共通化し、各機体でカスタマイズする (C)SPACE WALKER

風神は、ボディの上に外部キャリアを搭載する。この中に100kgの科学機器を格納し、高度150kmへの飛行が可能だ。雷神は外部キャリアの代わりに小型ロケットを搭載。これを第2段として活用し、上空で点火、200kgの衛星を軌道に投入する。長友は機体内部にコクピットを用意し、2名のパイロットと6名の乗客を乗せる。

  • 風神/雷神は7基のLNGエンジンを搭載

    風神/雷神は7基のLNGエンジンを搭載。タンクはLNGも液体酸素も複合材製だ (C)SPACE WALKER

  • 長友は無人機より推進剤が少ないので、空いたスペースに人を乗せる

    長友は無人機より推進剤が少ないので、空いたスペースに人を乗せる (C)SPACE WALKER

新型実験機はもうすぐお披露目

同社のスペースプレーン開発には、様々な日本企業がパートナーとして参画している。エンジンはIHIやIHIエアロスペース、複合材のボディは川崎重工や東レ・カーボンマジックなど、実績のある技術を活用。SPACE WALKERはインテグレータとして、それらの技術を取りまとめる立場である。

  • SPACE WALKERのスペースプレーン開発には、これらの企業が協力している

    SPACE WALKERのスペースプレーン開発には、これらの企業が協力している (C)SPACE WALKER

なかでも大きな特徴は、燃料にLNGを使用するエンジンを採用していることだろう。現在主流なのは液体水素やケロシンであるが、LNGは再使用性に優れ、環境にも優しいというメリットがある。Blue Originの「BE-4」やSpaceXの「Raptor」なども採用しており、世界で注目が高まっている。

このLNGエンジンは、GXロケット第2段用として開発された「LE-8」にルーツを持つ。GXロケット自体は計画が中止となってしまったものの、IHIは独自に研究開発を継続。SPACE WALKERのスペースプレーンには、LE-8と同クラスとなる推力10トン級のエンジンを搭載する予定だ。

  • IHIのLNGエンジン開発

    IHIのLNGエンジン開発。すでに370秒以上という高い比推力を実現している (C)IHI

LNGエンジンや自動航行システムなどをまず小型機で実証するために、SPACE WALKERは現在、全長4.6m/重量1tの実験機「WIRES」15号機を開発中だ。この機体には、推力3トン級のLNGエンジンを搭載。2025年3月より、ドイツの軍事エリアにて、高度5.5kmへの飛行実証を行う計画だという。

米本CTOはまた、国内での実験にも言及。2023年には、ヘリコプターを使った2回の実験を予定しているという。1つはダミー機体を投下するパラシュートのテスト。もう1つはWIRES15号機をぶら下げて飛行し、アビオニクスをテストするというもので、これは野田キャンパスから飛び立ち、利根運河の上空を往復する予定だ。

  • 2023年には、ヘリコプターを使ったテストを2回実施する計画

    2023年には、ヘリコプターを使ったテストを2回実施する計画 (C)SPACE WALKER

  • アビオニクステストの予定コース

    アビオニクステストの予定コース。利根運河に沿って飛行する (C)SPACE WALKER