USEN-NEXT GROUPのUSEN ICT Solutionsは2020年10月、Treasure Data CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)を導入し「営業高度化」というテーマのもと全社プロジェクトを開始した。そこで、プロジェクトリーダーであるデジタルマーケティング推進室長の泉善博氏に、プロジェクトの概要と成果を聞いた。
同社はUSEN-NEXT GROUPの中で法人向けのICT商材の販売/提供を行っており、取り扱いは幅広く、約150の商材を展開している。最近では、テレワークニーズやリモート会議のトラフィックを捌くための帯域保証型のインターネット回線や、社員の行動管理などを行うSaaS商材も提供している。
同社の営業は新規開拓からクロージング、継続的なフォロー、アップセルと、ほぼすべてを担っており、営業の負担は大きく、個人の能力差により成果にばらつきがあったという。また、獲得したリードについてもナーチャリングが満足にできないまま長期的なフォローができず、大部分を手放してしまっている状況だったという。
部門間の連携も限定的で、営業として実施したい施策がマーケティング部に上がってきたとしても双方向の意見交換は少なく、共通の目的に向かって動くことができていないという課題があった。
「以前はテレアポ&飛び込み主体の営業スタイルでした。私が入社したのはコロナ禍に突入した直後の2020年5月ですが、入社した瞬間から営業が顧客と対面商談が出来ず、顧客から名刺を頂けない問題が発生し、営業から何とか名刺獲得の問題を解決できないかと相談を受けました」と泉氏は振り返る。
泉氏は入社して4カ月、プロジェクト開始の前段階として、デジタルマーケティングの知識を多くの社員に伝搬し「デジタルマーケティングを推進するんだ!」という雰囲気を醸成するため、勉強会を計7回開催したという。この勉強会では、営業からさまざまな課題が上がり、それをベースにプロジェクトでやるべきことを固めていったという。
そして同社は2020年10月、「営業高度化プロジェクト」をスタートさせた。プロジェクトは総計30名程度のメンバーで構成され、全社横断型のプロジェクトとなった。
「プロジェクトは入社して5カ月後に発足したのですが、会社のコンディションなども見極める形で、必要メンバーをアサインしスタートしました。また、プロジェクトのミーティングは隔週で実施しているのですが、最初のキックオフ時に現在の状況と将来あるべき姿を記載し、その達成を目指しました」(泉氏)
プロジェクトでは、Treasure Data CDPを導入。半年でインプリ作業を完了させ、会社のほぼすべてのDBをCDPに接続したという。そして、接続されたDB同士を掛けあわせることで、それまで見えていなかった顧客の嗜好を可視化した。
営業の名刺情報は、MAツールのMarketoを活用した名刺交換の仕組みを構築。営業1名ごとにユニークなフォームを作成し、そこに各営業の名刺を表示させた。そのフォームに、Webで面談した顧客に名刺情報を入力してもらう。
「それまでWebによる面談では、担当者の名刺情報はいただけますが、同席する上司の方の名刺情報はいただけませんでした。営業からは、何とか上司の方の情報もほしいという強い要望がありました」(泉氏)
中には、フォームに入力しない人もいたが、顧客が名刺を入力すると担当にメールが飛ぶ仕組みのため、営業は顧客が複数参加していた場合でも、誰が未入力なのかを知ることができる。その場合、再度、名刺入力をお願いしているという。これにより、顧客の情報収拾を確実なものに変化した。
「現在、名刺データに関しては、ほぼオンラインで完結しています。営業マンひとりひとりにMAツールのMarketoを使ってユニークなフォームを発行し、その中にお客様に自身の名刺データをパーミッションと一緒に入力してもらうようにしています。そのデータはトレジャーデータのCDPにAPI連携によって入力されるようになっており、CDPのデータは、夜間バッチで営業マンが利用するCRMと連携しており、営業は前日までの状況がわかるようになっています。現在は、95%がオンライン商談になっていますので、ほとんどがこの仕組みによって名刺データが取り込まれます」(泉氏)
CDPにはホワイトペーパーのダウンロード、セミナー参加者などのリード情報、メルマガの開封率やクリック率、自社ホームページのアクセス情報など、さまざまな情報が集約されている。
これらの情報は、営業、マーケティング、企画、カスタマーサクセスなど、職種別にダッシュボードが用意され、見える化されている。顧客に提案した後、1週間くらいでどれくらい自社のホームページにアクセスしたのかもわかるようになっており、それによって営業は顧客の興味の度合いが判断できるという。
そのほか、メルマガの開封率が高いユーザー、Webアクセスが急に増えたユーザーをターゲットにインサイドセールスがコンタクトを図るなど、データ分析の結果をもとに営業活動を行っているという 。
「われわれは、とにかくデータを見てほしいとだけ営業に言っていました、そして、営業は 、受注できた案件とCDPデータを照らし合わせることで、徐々にノウハウをつかんでいきました。プロジェクト開始以来、隔週でミーティングを開催していますが、その数はすでに50回を超えています。ミーティングでは、営業からこういった成果が報告されており、そのレベルは、初期の頃と比べると雲泥の差になっています」(泉氏)
しかし、プロジェクト開始当初は、データがうまく活用されていなかったという。
「営業にはワーキングリーダーが何人もいますが、当初、各リーダーには自分たちがまず、積極的にデータを活用し、それをメンバーに伝播してほしいとお願いしました。あまり活用していないリーダーには、上司からトップダウンで指示を出すようにお願いしました。オンラインでの名刺交換の数もトラッキングできており、その数に応じてホワイトペーパーのダウンロード数も変わってきますので、営業成績に大きく影響してくると思います。現在では、データを活用していかないと自分が置いていかれるという危機感が営業にはあると思います」(泉氏)
プロジェクト開始から2年が経過したが、大きな成果が出ているという。具体的には、デジタルリードからの受注は約4倍に増加したほか、リード獲得から受注までのリードタイムが1/3に圧縮された。また、受注粗利割合は10.3%から41.2%に上昇したという。
「プロジェクト開始前でもWebリードからの受注はありました。2020年8月当時10.3%であったデジタルリードからの受注(営業受注獲得粗利ベース)が、1年後には22.1%に倍増、そして2022年8月には41.2%にまで成長しました。何もせずにデジタル案件割合が4倍になることは絶対に無く、この数字はプロジェクトに参加してくれたメンバーの協力のお陰で成し得た数字です」(泉氏)
泉氏はプロジェクト成功のポイントとして、営業との定期ミーティングを挙げた。
「営業と行っている隔週のミーティングは、ネタがなくても必ず実施すると決めました。定期的に行うことで情報共有が行われます。それが良かったと思います。ミーティングでは我々からの発表もありますが、ワーキンググループからの進捗報告も行われます。あるグループから良い発表があると、それ以外のグループの刺激になります、定期的なミーティングの実施によって、互いに切磋琢磨できる環境ができたと思います。ミーティング資料も最初は30枚程度でしたが、現在では300ページを超えています。それを1時間30分で行うので、かなり熱のこもった会議になっています」(泉氏)
また同氏は、データを活用していくためには、全社を巻き込むことが重要だとした。
今後は、プロダクトアウトではなく、マーケットインのお客様に課題にささるリッチなコンテンツを作っていくことに注力するという。
「常にWebのUIを改善し、コンテンツもマーケットイン型のコンテンツを作成していくことで、CDPに蓄積されるデータが増えていきます。営業が自分達でデジタルをフル活用して顧客開拓を実現できた時に、本当の意味でのマーケティングのDXは完遂すると思います」(泉氏)